【PCデポ騒動】認知症の方との高額契約について、現役認知症介護者の立場で考えてみた!

PCデポ 成年後見

「PC DEPOT」(PCデポ)という神奈川県を基盤に、主に首都圏でパソコン販売事業などを展開する小売店が、80歳を超える高齢者に対して月額15,000円弱という高額のサポート代を含む契約を結び、親族がその解除を求めたところ、契約解除料として20万円もの大金を請求するという事案が発生し、インターネットは元より、テレビ番組でも報道されるなど大きな話題を呼んでおります。
引用元:http://bylines.news.yahoo.co.jp/yoppy/20160823-00061403/

現役の認知症介護者として、かなり気になる事件だったので、Yahoo!ニュースのヨッピーさんの記事をベースに考えてみたい。

息子であるケンヂさんの怒りツイートから騒動は始まったのだが、ケンヂさんには離れて暮らす認知症のお父さまがいらっしゃる。お父さまとPCデポとの間で過去に1度、同じようなトラブルがあったものの、前回は契約解除料なしで解約できたそう。

しかし、3か月後に起きた今回は20万を請求され、交渉して半額を請求されている。納得のいかないケンヂさんは、ツイッターで公表し、このように拡散した。お父さまは現在、老人ホームに入居している。

認知症の親を持つ家族として、騒動を考えてみた

認知症介護者なら「必要のないモノを買ってきた、契約してきた」という経験は、あると思う。うちの母も、牛乳の訪問販売契約をしてしまって、慌ててキャンセルしたことがある。

わたしがケンヂさんの立場なら、やはりPCデポに行って「父が来ても、認知症なので契約しないでください」と口頭や文書で伝えたと思う。しかし、この行動が、どれだけ効果があるかは疑問だ。田舎の個人商店レベルならば、覚えていてもらえるはずだが、都会はたくさんの客が来る。店員もたくさんいて、シフトでコロコロ変わる。

企業として、認知症の客への対応の仕方を勉強していない場合、こういうケースを社内で共有できるだろうか?PCデポもきっと、社内共有できず、認知症の方への対応が分からなかった結果、店員によって対応が分かれたのだと思う。

ではケンヂさんは、家庭裁判所に成年後見制度の申立をして、後見人として取消権を行使すればいいのか?

成年後見人経験者として言わせてもらえば、NOだ。

離れて暮らしているうえに、取消権を行使するとなると、親族後見人(例えばケンヂさん)ではなく、専門職後見人(弁護士)が就くことになるはず。親族後見人は不正が多く、以前に比べて後見人になれない。さらに、こういった面倒な交渉事があると、親族では対応不可能と判断され、弁護士が就く可能性がアップする。

そうすると、サポート料金である月額15,000円以上の金額を、弁護士に一生払わないといけない。成年後見制度を利用して、契約を取り消せばいい!というのは正論ではあるが、そんな簡単なものではない。止められない後見制度を利用するのも、実はリスクなのだ。老人ホームへの支払いに加え、弁護士への後見人報酬を支払うことになったら、経済的にも大変。ケンヂさんも、そこまでは望まないのではないか?

では、どうしたらいいのか?弁護士ドットコムに、このような記述があった。

認知症の高齢者が不利な契約を締結した場合、その契約当時、認知症の高齢者には、法律上の判断ができる意思能力はなかったとして、契約は無効であるという『意思能力欠如の理論』が主張できます。

また、認知症の高齢者にとって、契約の内容が極めて不利であるため、高齢者にその契約の履行を求めることは公序良俗に反し、契約は無効であるという『公序良俗違反』の理論などを用いて、認知症の高齢者を不利な契約から解放する方法が、裁判例でも認められています。
引用元:https://www.bengo4.com/shohishahigai/n_5042/

こういう例が分かったとしても、やはり弁護士に頼る必要はありそう。一時的な弁護士費用で済むが、時間と労力は大変なものだと思う。もし認知症ご本人を裁判所に連れて行ったり、大量の書類を書かせたりするなら、わたしは泣き寝入りするかも。認知症ご本人が心労で、症状が進行してしまうかもしれないから。それだけは避けたい。

次に、企業側の立場で考えてみたい。

認知症のお客さまが来る時代だから、企業側も認知症の勉強は必要

PCデポ(東証一部上場)も、ここまで騒動になるとは思っていなかっただろう。Twitterのつぶやきひとつが、社会現象になって、株価もこんな風(下図チャート)にダダ下がりしてしまった。

詳しくはヨッピーさんの記事(一番下にリンクあり)を見て欲しいが、本人立ち会いが必要ということで、お父さまを老人ホームから連れ出し、車椅子を押してPCデポへ向かう写真が掲載されている。

認知症の高齢の方と、過剰な契約を結んでしまう会社の姿勢も疑問だが、結局、PCデポの対応の悪さが、怒りのツイートにつながったと思う。初回解約時と同じ対応をすれば、ここまで炎上することもなかっただろう。

PCデポは、店員に認知症教育をしていたのだろうか?店員の認知症教育は、これからはどの小売店も必要だと思う。例えばイオン従業員(5万人以上)は、認知症サポーターとして認知症の勉強をしている。

わたしも認知症サポーターだが、簡単な講座を受講すると誰でもなれる。しかし、それだとちょっと物足りないと正直思うので、会社で何人かは認知症介助士の資格をとってもいいと思うし、介護職経験者は小売業界にも必要なのかもしれない。

ピック病の人が万引きする可能性があるということは、勉強していれば知っていることだが、何も知らない人はただビックリして通報すると思う。初期の認知症の人は契約内容が分からなくても、その場を取り繕うために何でもハイハイと言って契約してしまうこともある。うちの母の牛乳契約は、まさにこれ。

このお父さまも「息子には内緒にしてほしい」と言ったらしいので、そういわれたら店員も素直に受け取ると思う。こういった行動を、認知症の知識のない店員が判別するのは相当難しい。

わたしの1作目の本に書いた、5秒で分かる認知症判別法「年齢を聞いてみる」は、少しだけ有効かも。契約締結中に何回か質問してみると、年齢が安定しないはず。また、書類への記載もきちんとできないこともあるので、そうやって判別する方法もある、完璧ではないけど。「認知症ですか?」とは聞けないので、こうやって間接的に探るしかない。

高齢者が単独で何かの契約をする場合、例えば保証人の記入が必要ならば、その保証人に確認をとって契約するという業務フローが必要になるのかもしれない。こういった事例はこれからどんどん増えるはずなので、企業側も認知症の勉強をしておかないと、リスクになる。

結局、PCデポはこう対応するとプレスリリースで発表している。

70 歳以上のお客様が新規にご加入される際は、原則、ご家族様、もしくは第三者の方の確認を いただくとともに、ご加入後3カ月以内のコース変更及び契約の解除を無償(注1)で対応い たします。なお、現在は 75 歳以上のお客様が新規にご加入される際、加入後1カ月以内のコ ース変更及び契約の解除を無償(注1)にて承っております。

75 歳以上のご加入者様に関しましては、ご加入期間に関係なくコース変更及び契約の解除を無償(注1)で対応いたします。
引用元:http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1396227

まだ顕在化されていない、同様の高額契約はたくさんあると思う。こういう事件をきっかけに、企業側の認知症の方への対応が変わってくれることを祈る。家族側の対応方法に、もっと簡単なものがあるといいのだが・・・

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

1件のコメント

何だか、理解出来ていない今現在…⤵
は、自覚しております。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(80歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか