「生活行為向上マネジメント」ってなに?

リハビリ

作業療法士(OT)さんが母のために週1回訪問してくださるのですが、ある時わたしがこんな事を言いました。

「病院に通ったり、リハビリも大切です。でも、社会的役割を与えるってのも大切なんですよねー」

こんな会話から、 「生活行為向上マネジメント」 なるものを実施してくださいました。わたしの介護とは “無縁” って思った方、ちょっと待ってください~ 必ず気づきがありますよ!

「生活行為向上マネジメント」 とは?

日本作業療法士協会が推しているツールらしいのですが、OTひろえもんさんの言葉 を借りると、

「作業療法のプロセスを表すツール」 であり、「作業療法を世間一般に発信していく手段」 とのこと。

これでも一般人には意味不明なんですが、

「その人の生活にとって大切で必要な生活行為を見つけよう!」

ということです。亡くなった祖母が大腿骨骨折から寝たきりへ移行していく姿をみて、いかに食事・入浴・排泄などの日常生活動作(ADL)が大切か!って痛感させられたんですよねー。何もしなくなることが、どれだけ死を近づけるかは祖母との1年でよく分かりました。QOL(生活の質)をよくするには、何気ない生活というのはものすごく大切なんですよ。

「生活行為向上マネジメント」は 「作業聞き取りシート」 というものを使って、何に興味があるかを明らかにしていきます。

掃除、料理、買い物、洗濯、子どもの世話、水泳、ダンス、温泉、絵を描く、旅行、俳句、友人との交流、畑、ボランティア、書道・習字 など、いろんな項目に対して、「している」 「してみたい」 「興味がある」 で分けていきます。

母が作業聞き取りシートに丸をつけていくのですが、認知症炸裂!仕分けルールも無視しながら、どんどん丸つけます(笑)そんな中、改めて気づいたことがありました。

・そういえば字を書くのが好きだったなぁ~
・なに?温泉嫌いなはずなのに、温泉には行きたいって?
・絵も描きたいって?

認知症介護していると、決まったルーティーンの中で回す方がラクと思いがちですが、それではいけないんですよね。このヒアリングで母が何に興味をもっていたか?を改めて確認することができました。

母の手足が不自由な事に対して身体的リハビリを行ってきましたが、身体以外にも認知症に対してのこのようなアプローチもあるんですね。作業療法士さんと認知症ってあまり接点がないのかな?と思っていましたが、決してそんな事はなかったです。

「生活行為向上マネジメント」を導入する社会的背景

「介護を施設から、在宅に移行していく」 という地域包括ケアシステムの中のひとつと考えればいいのかなと。作業療法士さんがこのシステムの中で果たす役割がこれで、理学療法士さんや看護師さん、薬剤師さん、それぞれの得意分野で役割を果たす事で、在宅介護が見えてくるというわけです。

どのような成果が得られるのか?

データによると、「生活行為向上マネジメント」を実施した人たちのQOL(生活の質)は、1年後も維持されたそうです。しなかった人たちはレベルが下がったという結果が出ています。

厚生労働省の資料を読むと施設から在宅へ という結論ありきかな?と思える部分もありますが、うちもできれば在宅で頑張りたいと考えているので、別にいいかなと。わたしのような素人だと作業療法士さん=機能回復訓練 というイメージしかないのですが、もっと広義な役割を国からも社会からも求められています。

その一環として、こういうツールを利用して社会への参加を促そうとしているんだと思いますよ。

我が家の当面の目標

で、このマネジメントの目標として掲げたのは、

「カレーの漬物を作って、ヘルパーさんや訪問薬剤師さん、作業療法士さんに振る舞う!」

認知症の母ですので、この目標は意外と難しいんです。

・材料を準備する → カレーの漬物に何を入れるか思い出すのが、認知症のため難しいです。
・実際に漬ける  → ぬか床を毎日見るとよく言いますが、認知症なのですぐ忘れます。
・振る舞う     → 認知症なので、自分が食べるためと勘違いしそうです。

手足が不自由なので、もちろんいろいろ準備して手足を動かす事は身体的リハビリになります。さらに誰かのために料理する(息子以外で) という社会的役割ができ、その目標に向かって体系的なアプローチをしました。認知症の妄想の原因のひとつとして、「大切にされ過ぎることで、心理的負担が生じる」 というのがあります。

この目標を達成できると、「誰かのためにしてあげることができた」 という気持ちになるはずなので、妄想も和らぐんじゃないか?という期待があります。

作業療法士さんと接点がある方は、この 「生活行為向上マネジメント」 の実施を持ちかけてみてはいかがでしょうか?広島県の作業療法士会のホームページが「生活行為向上マネジメント」について、分かりやすく解説されています。

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか