1日何時間以上「認知症介護」をすると、疲弊する?

時間 認知症介護

認知症介護を自宅でしているご家族は、いったい何時間介護をしたら身体的に影響が出るのだろう・・・

論文「認知症者の家族介護者のストレス」で行われた、ある実験をご紹介します。

家族で在宅介護する人を、介護している時間別に3グループに分けました。

  1. 1日16時間以上、介護をしている
  2. 1日5時間から15時間、介護をしている
  3. 1日4時間以下、介護をしている

この人たちの唾液を、起床後、起床30分後、17時、21時に採取します。なぜ、唾液を取るのかというと、起床時コルチゾール反応を見るためです。コルチゾールについて、日本看護学会協議会共済会のホームページを引用します。

コルチゾールは免疫物質を作る副腎皮質ホルモンで、睡眠中のカラダに蓄積されているブドウ糖や脂肪などの熱源を、カラダのエネルギーとして活用するようにと分泌され、働きます。睡眠中は低く抑えられ、午前3時頃から明け方に最高値に達し、起床後30~60分のあいだに大量に分泌、その後次第に低下していきます。
引用元:https://www.e-kango.net/selfcare/aroma/sleep/vol6.html

ストレス状態をよく反映するものとして、コルチゾールを使います。なぜ、起床時なのかというと、こちらも同じように引用します。

コルチゾールが早朝に高くなることで、体内にある糖分をエネルギーとして使える形に取り出すことが促進され、夜中何も食べていない後の、朝の血糖値の低下を防いでいるともいいます。また、起床後の大量分泌の現象は、日中に襲ってくるストレスに対処するため(略)
引用元:https://www.e-kango.net/selfcare/aroma/sleep/vol6.html

早朝にたくさんコルチゾールを分泌するのは、日中のストレスに対処するためだそうです。人間のカラダって、うまくできてますよね?もし、認知症介護をやりすぎて、慢性的にストレス状態になっていると、この起床時コルチゾール反応が起こらなくなることが分かっています。

3グループの測定結果が、こちら。

起床時コルチゾール反応
画像引用元:http://www.psych.or.jp/meeting/proceedings/73/contents/poster/pdf/1AM051.pdf

グラフを見ると、1日の介護時間が5時間を超えると、起床後30分に分泌量が急に少なくなります。起床時コルチゾール反応が、起きていません。ということは、1日4時間以下に認知症介護を抑えたほうが、ストレスが少ないということになります。

この研究は、アメリカと日本の共同研究で、アメリカ人(平均年齢は約58歳)を対象に行った結果です。そうね、4時間以下におさえよう! と一瞬思ったのですが、日本人で同じ実験をすると、もっと短い時間でストレスを感じるような気がするし(理由は関連記事をみてください)、もっと根本的なところで引っかかりました。

認知症 ポジティブ

それは、認知症介護の時間の定義が、よく分からなかったのです。

難しい認知症介護の時間の定義

何をもって「介護」というのか?似たようなコトバで「介助」があります。介護と介助の違いについて、サ高住ノートさんのサイトを引用します。

「介護」はとても広い意味を持っており、食事や排泄など身の回りの世話からケアプランの作成、本人や家族との相談など様々な行動が含まれるのです。対して「介助」の持つ意味は「付き添い」「介添え」「サポート」など。ケアプランに基づき、実際に利用者の食事や排泄、入浴などを助ける行動そのものを指します。要するに「介護」を実現するための手段だと言えるでしょう。また大きな違いとして、介護は「自立」を促すことを目的としていることに対し、介助はただ日常生活を助けるだけという点も挙げられます。
引用元:https://www.sakouju.jp/chiebukuro/service/kaigokaijo/

わたしを例にすると、「介助」の時間は、ものすごく少ないです。外出時の歩行介助がほとんどで、それ以外、母は自立しています。一方で、買い物に行ったり、賞味期限切れの野菜を廃棄したり、ゴミ捨てに行ったり、掃除・洗濯をしたりといった生活援助的なものは、ものすごく多いです。

介護の中に、介助が含まれるのですが、こうやって「介護、介助?」って分けることだったり、この時間が介護?と考えること自体、わたしは意味のないことだと考えました。もっと単純に、こうしたらいいのではと。

「自分自身が介護しているという感覚かあるかどうか」

これに尽きるのではないでしょうか?

わたしがやっている生活援助も、介護に含まれるらしいのですが、わたしは介護時間にカウントしません、日常だからです。同じ話を延々と聞かされるのも日常、病院に連れて行くのも日常です。だから、1日4時間以下のグループに属するので、ストレスが少ないということになります。

例えば、イヤな上司から「認知症介護の記事を書け!」と言われて、4時間かけて完成させたらストレスですが、自ら進んで4時間書けて記事を書くことは、全くストレスになりません。自分が介護していると「感じる」時間を4時間以下にすれば、ストレスが軽減されるというふうに論文の結論を読み換えました。

デイサービス、デイケア、ショートステイを使って、介護時間を4時間以下に削減することも必要です。わたしの結論で考えるならば、介護が好きになったり、それこそしれっと介護をすることが、「感じる」時間を削減することにつながります。介護好きになるのは、なかなか難しいので、繰り返して介護をするうちに「当たり前な状態にする=日常と感じる」レベルになれば、ストレスも減るのではと思います。

介護者自身に余裕がなく、自分時間を奪われると考える人は、あれもこれも介護って思えてしまうでしょうね。

最後に、わたしが好きな介護の定義をご紹介します。

「最期までその人らしく生きるために、寄り添ったり手伝いをしてあげることが介護」

元論文:認知症者の家族介護者のストレス

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか