うちの母は、居間の模様替えが大好きです。
帰省する都度、額縁の中の写真が変わり、置き物の位置が変わり、他の部屋から見慣れない不思議なものを持ってきます。
この前、1日だけ帰省したときは、3日前まで飾っていなかった、プーさんの鉢(記事タイトル下の写真)が飾ってありました。
プーさんの鉢は、わたしが10年くらい前に母の日フラワーデリバリーで、カーネーションを贈ったときについていた鉢です。当時は、母親に感謝するとか照れくさくてできないから、せめて母の日に花ぐらいは贈ろうと、何年か連続して送ってたことがある、その鉢です。だから、デイサービスも、孫も、ジャンケンもありません。
あまりにエンドレスだったので、最初は張り紙に「これは息子が10年前、母の日にあげたもの」と書いて貼ってみたのですが、分かったつもりの母は、鉢の中にその紙を入れてしまいました。さて、困ったぞ、今日は止まらない・・・やってはいけないと思いつつ、奥の手を使うことにしました。
母の髪の毛を洗い、ドライヤーで乾かしたあと、母が違う部屋に移動した隙を見計らって、プーさんの鉢を自分の腹の中に隠し、お腹を大きくした妊婦のようになって、自分の部屋へ猛ダッシュしました。
その後、しれっと居間に戻って、母から鉢のことを言われないかとヒヤヒヤしながら、黙ってテレビを見ていました。何か言うかな・・・と思っていたら、母はこだわりの鉢について、もう忘れているようでした。
母の模様替えが最近はよくない方向に
母の模様替え好きは前からなので、いつも好きにやってもらっています。
ところが認知症の進行により、自分で模様替えしておきながら、新しい置き物や写真を見て違和感を感じると、
- 誰かにもらったからと不安になり、東京に電話してくる
- 自分で他の部屋から移動してきておきながら、すべてデイサービスでもらったことになる
母の話を聞いていると、本当にハチャメチャなストーリーなのですが、家族以外は絶対信じるレベルです。でも、記憶の断片をつなぎ合わせるには、自分独自のストーリーが無いと成立しない、その気持ちもよく分かります。ハチャメチャは時に笑えるし、時に泣けるのだけど、母なりに必死にもがいているわけです。
結局、母の一番の不安は「モノをもらったら、必ずお返しをしなくてはならない」症候群なんです。例えば親族が死んだ場合、その親族が死んだことが悲しいのではなく、大昔に香典をもらっているはずだから、香典をお返ししないといけない、どうしようというスイッチのほうが強くて、そればっかりわたしに言います。返報性の原理が、相当強く働いている模様。
デイサービスで、他の利用者さんが塗った塗り絵、折り紙などをよくもらってくるのですが、それに対してもお礼やお返しをしないといけない、返却しないといけない、お金を払わないといけないという、恐怖心に支配されてしまいます。
単なる部屋の模様替えのはずが、すべてお返ししなきゃという不安になる・・・来月の長谷川式認知症スケール、なかなか厳しい結果になりそうな予感です。
あまりにスイッチが入ってしまったときは、しれっとわたしの部屋に塗り絵や折り紙を撤収したり、模様替えを戻して、母の様子を見ます。この撤収はきっと、見る人が見ればよくない対処法なのかもしれませんが、わたしとしては母と長く穏やかに付き合っていくために必要な手段だと思っています。
今日もしれっと、しれっと。