認知症の経過報告(1年と47週・48週間目)・おしっこで濡れた母をおんぶした日

百貨店の女子トイレから、認知症の母(71歳)が悲しげな顔でハイハイして出てきた3時間前の出来事です。

大雪の中、タクシーで近くの百貨店の中にある美容室へ。2時間後、終了コールが来たので母を迎えに行き、百貨店内のカフェでランチをすることにしました。

カフェで震える母

チーズカレーを注文し、水を飲もうと母がコップを持ち上げると、いつもと様子が違います。

カタカタ・・・カタカタ・・・

CMT病の母は、常に少し震えているのですが、この日はかなり激しいものでした。最初にカップスープとサラダがきたのですが、カップを持とうとすると再び、

カタカタ・・・・カタカタ・・・・

テーブルとカップがぶつかり合い、波打つスープはカップから今にもあふれそうです。スープを諦め、カレーを食べる事に。カレーをスプーンですくうと再び、

カチカチ・・カチカチ・・・

お皿とスプーンがぶつかって音を出し、持ち上げるとカレーが10m先まで飛んでいくような大きな震えになりました。止めようとすればするほど、振れ幅は大きく・・・ひとりで食べられないと判断したわたしは、食事介助をする決断をしました。

実はこれが人生初の食事介助だった母は、わたしにこう言いました。

あんたが小さい頃は、こうして食べさせていたのにだめね~
くどひろ
まぁ大丈夫だって、今日だけだから気にしない気にしない
もしこうやって自分で食べられなくなったら、施設に入れなさいよ

施設のことは以前から話し合ってますが、こういう状況で言われるとさすがに言葉もありません。食事介助しているうちに、だいぶ震えも収まり、コーヒーゼリーを食べる頃にはギリギリ自分で食べられるレベルまで回復しました。

なぜこんなに震えたのか?

原因は、おそらく美容室です。ヘルパーさんや家族以外と、久々に2時間近く話した結果、興奮してしまったと思われます。

もうひとつは、家での活動量の低下です。座る時間が長くなったせいで、家事をしなくなり、久しぶりの外出で緊張と疲れが襲ってきたと推測できます。

お会計を済ませ、カフェを出ようとすると母が立てません。手だけでなく、足も震えて力が入ってないようです。しばらく待ち、なんとか立ち上がったところで、今度は母がこう言いました。

トイレに行きたいんだけど・・・
くどひろ
あそこにあるけど、家はすぐだよ。どうする?
ここでトイレに行く!

腕を組みながら歩くのが、うちら親子の基本スタイルなんですが、一緒に女子トイレへ向かうことにしました。

女子トイレ前で、待ちぼうけ

トイレ前までは震え以外は特におかしいこともなく、いつも通り入口まで介助してトイレ前で待ちました。

そこから待つこと、3分・・・・5分・・・・10分・・・・待てども待てども、トイレから出てきません。

くどひろ
困ったなぁ・・・

つぶやいた次の瞬間、自分のひざくらいの高さに母の顔があることに気づきました。四つんばい状態で悲しげな顔をして、見上げています。わたしは見下ろしながら、

くどひろ
ど、ど、どした???

家の中でハイハイすることはありますが、外では今回が初めて。起こそうと脇下に手を入れ抱えたのですが、なぜか抵抗します。

くどひろ
ほらっ、とりあえず、この椅子に座って!
いや、座りたくない!

トイレ前で、このやりとりが5分程度続き、女性のお客さんから次々と声をかけられます。

お客さん
大丈夫ですか?車椅子持ってきましょうか?

確かに目立ちます、百貨店の女子トイレ前で横たわってますから。起こそうとズボンに手をやった時に、抵抗していた理由が分かりました。

激しく抵抗した理由

「ズボンが濡れている・・・漏らしたな・・・」

椅子に座りたくないと抵抗したのは、おしっこが椅子につくからでした。真偽の程は分かりませんが、和式トイレでしゃがめなかったと本人は言っています。

もし本当に和式トイレなら、しゃがめないので無理です。しかしトイレに行く前は震えこそあったけど、歩けてはいたんです。それが突然・・・漏らしたというよりかは、足の不自由さからやむを得なかったという感じです。

ふだんなら、和式はムリだから他にしようとフラフラ歩いて戻ってくるのに、それもできませんでした。それほどまでに興奮していたのか・・・外出に緊張したのもあるかもしれません。

なんとか椅子に座らせるも、今度は立つことができない母。そこから立たせるまで15分が経過し、その間もいろんな方から

お客さん
大丈夫ですか?手伝いますか?

と声をかけられ続けました。おしっこの事は本人のためにも言いたくなかったので、

くどひろ
ありがとうございます、大丈夫なんで

とひたすら言うしかありませんでした。

目の前に階段が!

エスカレーターまではだいぶ距離があり、ズボンもきちんと履けていません。おしっこで濡れる母と、いつもどおり腕を組んで歩ける状態ではありません。そんな時、目の前の下り階段に気づき、

「これしかない!」

と考えた私は、おしっこで濡れた母をおんぶすることにしました。手や背中でおしっこを感じながら、1階の裏エントランスまで階段を担いで降ります。

これよりもさらに前かがみでしたが、だいたいこんな感じ。
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ところが手に力が入らないのか、肩に手を回せません。そうなると踏ん反り返って後ろに倒れてしまうため、わたしがさらに前傾姿勢となり、母を乗せて階段を下りました。前もあんまり見えないし、すでにおしっこどころではなくなっていました。

裏とはいえエントランスなので、百貨店の店員さんが集まってきます。

店員さん
大丈夫ですか、お手伝いしますか?
くどひろ
すみません、タクシーを裏に回してもらえますか

おんぶの状態でお願いをし、タクシー乗り場付近の椅子までさらに移動しました。そうしているうちにタクシーが来て、店員さんも介助。2人がかりでタクシーへ押し込みました。

タクシーでワンメーターのところに家はあるのですが、外は大雪。家の前の道路を雪かきしてなかったため、タクシーがまさかのスタック、タイヤが空回りしてます、ギュルギュルって。

母はここから歩けると言うのですが、絶対に歩けません。運転手さんと2人で雪かきを必死にし、タクシーを後ろから押して、なんとか脱出。その後母を抱えて、家の中へ押し込みました。

認知症よ、ありがとう!

押し込んだ1時間後に作業療法士さんが来たのですが、あれ程の出来事を母はすべて忘れてリハビリを受けてました。認知症でよかったな!って本当に思いました。

おしっこを漏らして落ち込んでしまったり、外出する自信を失うほうが怖いので、何事もなかったかのようにケロっとしている母を見て安心しました。

わたしがすごい勢いで洗濯機を回しているのを不思議そうに見てたので、なんか笑えました。もちろんこの件で責める事はしてませんし、わたしの記憶の中だけで留めます。

まずひとりで立ち上がることを最優先にリハビリする必要があるなと思い、作業療法士さんにも伝えました。活動量が減ると認知症は悪化するし、認知症が悪化して活動量が減っているかもしれません。

今後こういう事は多くなるな・・・と思いつつ、ケアプランをどう修正するかとりあえず自分で考え始めました。疲れはしましたが、妙に感情コントロールができているので、わたしはそんなダメージもなく、母は全く覚えてません!ラッキー!

過去最高の文章の長さになってしまいました、最後まで読んで頂いてありがとうございました!来週月曜日は診察日なので、次なる策を先生と考えます。

ジム通いしててよかった~、こういう時のためだったかな??もっと鍛えないとな(笑)

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

2件のコメント

すごく冷静に、対応されてますね。
障害者用トイレを利用という方法もあります。
お母様のお気持ちが、よくわかります。
外出先で、下痢してズボンを汚した父を思い出しました。
しばらく、落ち込んでいました。今は、もうすっかり忘れてますけど。
私も”しれっと”介護してます。

ハルキさま

コメントありがとうございます!

確かに身障者トイレという選択をあとで気づきました。いつも普通のトイレなので、大丈夫だろうと思ってしまって・・・
少しも落ち込まない、歳だからしょうがないと開き直っている母がすごいです。

しれっとをつかうきっかけになった記事はこちらです↓ もしよろしければ、ご覧くださいませ!
https://40kaigo.net/care/home-care/4445/

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか