認知症の経過報告(2年と7週・8週間目)我が家に訪れた小さな2つの奇跡

認知症奇跡

1か月ぶりの母との再会。

最近はだいぶ落ち着いたので、2週間ほど空けて実家へ帰省するようになった。

訪問看護師さん、ヘルパーさん、作業療法士さん、デイサービスと絶えず家に人が来るので、遠距離介護でも心配はない。なのに、1か月も開くと何か起きているのでは?と思ってしまう。

3年目に突入した遠距離介護だが、小さな2つの変化があった。あまりに小さな変化なのだが、わたしの中では奇跡に近いものだった。

★★

病院へ連れて行くことになり、わたしは居間で横になって待っていた。すると、パープルのあざやかな服を着た母が現れた。

「なにそれ!いい!なに、どこで買ったのそれ!」

42年間、自分の母親の服を褒めたことなど一度もないのだが、あまりの事に驚きつい言ってしまった。

「あら、そんなに褒めてもらえてうれしいわ」

勘の鋭い人は分かったと思う。認知症の人特有の症状で、いつも同じ服しか着ないというのがある。そう、母はこの2年間、同じ服しか着ていない。それが1か月ぶりに帰ってきたら、まさかのパープルの服。

かかりつけ医や作業療法士さんにも、同じトーンで喜びを伝えてしまった。意味不明だったとは思うが、つい・・・

★★

実家は築50年、2階建て木造の古い一軒家だ。

今から24年前は、そこに5人が住んでいた。父、母、わたし、妹、祖母が同居、明るい家族ではなかったけど、家には活気があった。しかし今は母ひとり。祖母は亡くなり、父は家出し、子どもたちも出て行ってしまった。

居間が1階にあり、母は1日のほとんどを居間で生活している。

わたしは、高校時代まで使っていた2階の自分の部屋にいる。この程よい距離感は助かっていて、母が同じ事を10分で10回言ってきた時に、リフレッシュのために部屋へ逃げ込むことができる。

そんな古い家には、30年前に取り付けた内線電話がある。高校時代はご飯が出来ると、母が内線電話で一斉連絡をし、台所へ家族が集合する・・・そのための内線電話だ(下の写真)。

認知症奇跡

本当は新しい電話に変えたいのだが、認知症の母が取り扱えないと思い、変えていない。ガスコンロのボタンが左右逆になっただけで、覚えるのに1年かかった人だ。

東京で大きな揺れを感じたあの夜、母と一緒にテレビを観ていた。

「あら、東京、大変なことになってるわよ」

21時にそんな会話をした後、わたしは部屋に戻ってブログを書いていた。

22時。

内線電話が突然鳴った。

「プルプルッ、プルプルッ」

「(ガチャ)え、なに?どした?」

「ねぇ、東京で地震あったってよ、あんたの家大丈夫なの?」

それは1時間前に話したんだけど、そういう話ではない。勘の鋭い人でも、今度は分からないと思う。これが小さな奇跡なのだ。この内線電話が鳴ったのが、2年ぶりだったからだ。母はもう、電話の使い方など忘れていると思っていた。

「ねぇ、ヘルパーさん来たよ~」

手足が不自由なら電話で呼べばいいのに、いつも階段下まで歩いてきてわたしを呼ぶ母。認知症で使い方が分からなくなったんだな・・・そう思いながら2年間過ごしてきた。

この小さな2つの奇跡。きっかけはおそらくデイサービス。デイで働いていると錯覚している母が、とうとうファッションや異性にも気を遣うようになったのだと思う。

電話に関してはよく分からない、でもコウノメソッドであったり、訪問リハビリの日々の努力は、どこかで効いていると私は思っている。

つい3か月前には失禁、デイ拒否、1日中寝ていた人がこうなるんだから、ホント認知症介護って不思議だ。

だからどの家にも、可能性ってあるんだと思う。そのきっかけを探す事ができるかどうかだけの違いなのかもしれない。1か月後はどうなっているか分からないけど・・・

今日もしれっと、しれっと~


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

4件のコメント

ウチもよくありますよー。 どうしたんだ?っていうことが。
あまり続かないのがなんともですが・・・。
でもこういう「うれしい奇跡」っていいですよね!励みになります!!
こういうことがあるとどんなに疲れていても吹き飛びます!!

しかし逆に「進んでしまったなあ」ってことがあると一気につかれるんですよね・・・

syumitektさま

そうなんです・・・続かないし、逆のことが多いんですよ。
しかし、今回のは最も大きな変化で、兆候もなかったのでびっくりしました!

あとは風呂に入ってくれたら、今回ぐらいまた驚きます。

認知症って不思議だなと思います。よく覚えていて冴えている時もあれば、
全然記憶が混じって混乱している日もあり。
一度は覚えていても、記憶を取り出してくるときに誤作動をしているのかな?
と思います。よく覚えられないというけど、覚えてはいるように思うんですよね。

とにかく、こういう小さな奇跡が毎回起こると嬉しいんですよね~
うちは、これから母を引っ越しさせるという大仕事がありまして、
奇跡どころか後退しそうだなあ。

baba153さま

誤作動という言葉、本当にそうだと思います。
記憶はあって、その引き出しがうまくできないのが認知症だと思っています。

環境の変化はいろんな事が起こりがちなので、不安を取り除いてあげてくださいね。

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工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか