介護家族が認知症介護の知識を習得すればするほどぶつかる次の壁

石垣を超える

認知症の家族とものわすれ外来へ行ったとき、医師に認知症の症状をどのように伝えていますか?

わたしは認知症介護初期、3年目、そして7年目の現在を比較すると、伝え方がだいぶ変化しています。

認知症介護初期

認知症介護初期は、母をかなり意識しながら、医師に症状を伝えていました。

母の認知症の症状はまだ軽かったので、「認知症」という言葉を診察室で使おうものなら、母は激しくショックを受けるか、「そんなことない!」と怒り出すかのどっちかだと思っていました。

そのため、医師の前では認知症という言葉を使わず、「もの忘れ」という言葉を多用したり、家での症状を口頭ではなくメモで渡したり、遠回しな表現を使ったりという、母への気遣いがすごい時期でした。

認知症介護3年目

3年も経過すると、わたしが母の症状へのとまどいが減り、慣れてきました。

介護初期に医師に伝えていた症状も、3年目は伝えなくなりました。大きな変化があったときだけ、医師に症状を伝えるようになっていました。

認知症介護7年目のいま

わたしはもっと、母の認知症の症状に慣れました。

一方で、認知症の進行を強く感じる場面が増えてきたので、医師に家での様子を細かく「口頭で」伝えることが多くなりました。

メモを使わなくなった理由は、母の記憶保持が難しくなっているからです。診察室で気遣いなく、症状についてストレートに話したとしても、母は全く覚えていません。最近困っている便失禁の話も、医師の前で遠慮なく話します。

高いレベルの認知症介護を求めると現れる次の壁

診察室ではやむを得ない部分もありますが、それでも介護初期のような母への配慮があったほうがいいのかなと思うことがあります。専門職の方がもし、一緒の診察室に居たら、もう少し柔らかい表現でと指摘されるかもしれません。

わたしの直接的な表現で、母は傷ついている可能性もあります。あるいは今は大丈夫でも、のちに、わたしの言葉を暴言と変換して、母との関係が悪化するかもしれません。

そう思うようになったのも、模範的な認知症介護を知識として得たからです。何も勉強してなければ、そうは思わなかったはずです。

介護初期は、なんで認知症の人は同じことばかり言うんだろ、盗んでないのに盗んだって言うんだろというところで悩みます。最初の壁にぶつかり、介護者自身が勉強して理由が分かったとしても解決はしないのですが、介護者の中で「ある程度」折り合いをつけられる時期がやってきます。

さらに介護の知識を増やし続けると、今度は認知症の人に「こう接するべき」「こうあるべき」という知識が増えていき、次の壁にぶつかります。より高いレベルの認知症介護をしたいと思っている人ほどその壁は高くなり、そこで思い悩む介護家族が増えています。社会全体としては、いい流れなのかもしれません。

わたしも認知症の人にこうあるべきという知識が多くなり過ぎて、世間でいうあるべき介護と自分の介護が乖離していると感じることがよくあります。

ただ、認知症介護はそれぞれの家庭で違いますし、求めるものも違うので、世間一般でいうところの模範的な認知症介護に、ムリに寄せていく必要もないのかなと、わたしは考えています。

各家庭におけるそれまでの親子関係、認知症の人の生まれ持った性格、 介護者自身の性格や言動、介護環境によって、認知症ご本人の感じ方や受け止め方も当然変わってきます。

うちの場合、母とわたしの親子関係は人生を通じて良好でしたし、母は今でも息子や娘をかなり信頼していると思います。わたしが少々トゲのある物言いをしたとしても、笑顔で受け入れてくれます。(約4年前に書いた下記記事や自著『認知症介護で倒れないための55の心得』(廣済堂出版)でも取り上げた多幸性もある)

多幸感

模範的な認知症介護を勉強することは、母のためになるという思いがある一方で、わたし自身を苦しめる要因にもなっているので、こうあるべきという認知症介護とは、程よい距離感で付き合っていきたいと思っています。初めから、認知症介護で満点は狙ってないですしね。

介護家族の皆さま。模範的で教科書的な認知症介護に、自分の首を絞められ過ぎないよう、力を抜いていきましょう!

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

5件のコメント

ふむふむわかります。母の担当医は、話はよく聞いてくれますがアドバイスは、特にありません。私もその日の気分で症状を話しています。4年も過ぎると、たまに何しに来てるのかな?なんて思ったりして(笑)

たぶん?、義父母も、実父親のことも嫌いで、テキトーに?介護しているとは、思いますが、本当に毎日、疲れています。
元ナース、ペーパーケアマネで、つい、施設や担当ケアマネさん、介護士さんに、それは違うんじゃない、とか、えっおかしいでしょ、と、心の中でダメ出ししてました。最近は、ほぼ諦め?と、いうか、施設の出来ることをしてもらって、感謝しようと努力してます。
くどひろさんの本に、ガツンとやられた感?もあります。
と、いうか、くどひろさんは、根本的に、優しいと思う。

ひまわりさま

内情が分かっている人ほど、ぶつかる壁かもしれませんね。
わたしの本はかなり柔らかく書いているつもりですが、ガツンいっちゃいましたか!失礼しました・・・。

すみません。お忙しいところ、愚痴っぽいコメントに、お付き合いいただき、ありがとうございました。
私自身の体調が、すぐれず、そんなときにも、毎日の介護は、毎日日常に、あるので、時々くじけそうになります。
介護問題だけ?ってわけでもないと、自覚は、してますが。

日付と曜日のデカイ電波時計、ナイスでした。
毎朝カレンダーを、じっと見つめていた義母は、嫁に聞かなくても、何分間か、わかるようになりました。なので、義父に、デイにいく日かどうか、自信もって答えてます。

まっ、とりあえず、毎日、無事に過ごせたら、いいかと思うのですが、毎日、何だか疲れています。

どうやったら、うまく、ケアマネージメント出来るのか。
同居の義父母と、一人暮らしの実父親。

しれっと。ですかね。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(80歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか