本を買う時、ジャンルを問わずAmazonの上位100位を見ることがあります。
ここに介護の本が入ってくることはあまりなく、話題のビジネス書をチェックするつもりで見ていたところ、この「認知症の世界の歩き方」(ライツ社)を見つけました。たくさんの種類の本があるAmazonだと4桁でも十分すごいのですが、わたしが偶然見たときは2桁の順位。めちゃ売れてます。
調べれば話題の理由が分かると思ったのですが、こういうときは先入観なく本を読みたいと思ったので、下調べなく購入。なるほど、今まで「見たこと」のない認知症の本でした。
認知症当事者の視点の本
本の帯にあるとおり、認知症当事者へのインタビューを元に作られた「本人の視点」で認知症を知ることのできる本です。
これだけなら、たくさんの認知症当事者の方が出されている本と何ら変わりません。他の本との違いを一言でいうなら、「デザイン」だと思います。今まで読んだことのない本ではなく、見たことのない認知症の本と書いた理由はここです。
著者の筧裕介さんは、issue+design代表で社会課題をデザインの力で解決されてきた方。もしこのデザインがなく、文字中心で本が制作されていたら、ここまでの爆発的ヒットにならなかったかも?と思ったくらいデザインがステキです。
たくさんの箇所に配置されたちょっとしたイラストやデザインが、頭に入りにくい認知症の知識をうまく整理してくれます。内容ももちろん分かりやすく書かれていますが、やっぱりデザインが秀逸です。
認知症というテーマの重さを取り除いてくれる色数の多さ、見出しフォントの柔らかさ、イラストが読書を始めるときの「読むぞ!」の壁を取り除いてくれます。そして、冒頭にこう書いてあります。
認知症のある方が経験する出来事を「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、誰もがわかりやすく身近に感じ、楽しみながら学べるストーリーを作ることにしました。
引用元:認知症世界の歩き方(ライツ社)
地球の歩き方も、意識しているのかも?? 冒頭に出てくる島の比喩、例えば乗っていると記憶をどんどん失うミステリーバスが1章という例えも、デザインをさらに引き立てる力を持っています。
本の内容は認知症介護を経験している方なら、あるあると言いながら読み進められるはずです。認知症を全く知らない方は、なるほどと思ってスッと知識が入ってくると思います。
読み終えて思ったのは、本の制作にめっちゃお金も時間もかかってそうだなと。イラスト、色数もそうですが、関わった人の数も含め、定価2090円は安いのではと。本当はもっと売価を上げないと利益はでない? なんて目線でも、本を眺めてしまいました。
わたしも自分の本を書いたとき、イラストの数や色数の制限とか、めっちゃ経験してきました。他の版元の編集者さんはきっと、この本でいろいろ考えさせられるところあるんだろうなと。コスト的にこの本のような企画の立案自体ができないかもです、たぶん。
認知症当事者の発信と介護家族の葛藤
今まで、認知症当事者の方が書いた本を何冊か読みました。
多くの認知症介護家族は、認知症当事者の本を1度は読むと思うし、気持ちや症状を理解することで、自分が抱える介護の悩みを解決しようとした経験はあると思います。
わたしもそのプロセスを9年経験したあげく到達したのは、自分が経験していないことだから、完璧な理解を求めず、なんとなくそういうものと理解するだけで十分と思うようになりました。
他人の気持ちを100%理解できないのと同じことで、どんなに頑張っても認知症の人を理解できません。何とか理解したい、答えが欲しい、そこを求め過ぎるあまり、認知症介護でもがき苦しんでいる介護者もたくさんいます。勉強熱心過ぎるうえにぶつかる、新しい別の壁です。
この本にある知識が少しでもあれば、介護中の怒りの沸点が100℃ではなく、150℃くらいにできます。簡単には沸騰しない、結局沸騰するにしても、50℃のバッファのおかげで、介護中に自己嫌悪にならずに済むし、そのことは認知症の人にとってもメリットがあります。
もし当事者目線の本を読んだことがない方は、最初に読むべき本だと思います。とてもいい本なので、皆さま手に取って読んで、いや見てください。
音声配信voicyの最新回は、認知症介護のツライときの乗り越え方のお話です↓
今日もしれっと、しれっと。
【2024年講演会予定】
11/4(月祝)岩手県紫波町 → 講演の詳細はこちら
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