「お客さんが来たのよ」と言う認知症の母の言葉を疑った結果

さっきお客さんがここにきて、うちのこけし見てったのよ

実家の居間にはたくさんのこけしがあるのですが、認知症の母はなぜか、このこけしを見にくるお客さんがいると言います。実際のところ、見に来たお客さんは1人もいないので、おそらく介護職の皆さんとの会話のことだと解釈しています。

母の作話が最も多いのが、うたた寝のあと。母は朝なのか、夜なのか、昭和なのか令和なのか、時代や時間がぐっちゃぐちゃになります。わたしも寝起き直後はそうなるので理解できますが、母の混乱は1分以上、長いと5分くらい続きます。

14時4分の目玉焼きという記事の原因もこれですし、8年前に亡くなった祖母が生き返ることもあります。最初はどれもビックリしたのですが、最近は割と慣れてきて、いつものやつ始まったなぐらいで考えています。

わたしが買い物から帰ってきた11時頃、母はまた「お客さんが来た」というので、昼寝でもしていたのかなと思っていたのですが、この日はこけしでもなく、亡くなった祖母でもなく、はっきりと町内の人が来たというのです。

いつもと様子が違っていたので、念のためドアホンに録画されたデータをチェックしてみたら、確かに見知らぬお客さんが映っていました。

ただ、母はドアホンをうまく使えないので、録画されていても話の内容までは分かりません。タイミング悪く、わたしが買い物に行った30分の間に来客があったのです。

母は来客者と話したのですが、全く記憶がありません。誰が来て、何を話したのか? 何か変なものを買わされていないか、気になってしょうがありません。いったい、誰なんだろうと思いながら、30分ほど経って、あることを思い出しました。

見守りカメラを増設していた!

すっかり忘れていたのですが、わたしは母のデイサービス間違いを阻止するために、見守りカメラを増設していました。そのカメラにはSDカードが入っていて、連続録画設定をしています。(家電批評でのみ紹介したカメラで、ブログでは紹介していません)

早速、ドアホンで来客者の訪問時間を調べ、その時間までさかのぼってカメラの録画データを見たら、映像がありました!

母が町内の人と話していたことは、事実でした。どうやら町内会費を集めに来たようです。早速内容を再生してみると、

町内の人:「明日の午前中、もう一度伺ったほうがいいですか?」
母:   「いや、明日は午前中より、夕方のほうが……」
町内の人:「夕方ですか。分かりました、また明日伺います」

録画されていた内容をすべて聴いて、全貌が見えました。

母は町内会費の支払いをしなければならなかったのに、お財布の場所が分かりません。すぐに払えないと判断した母は、明日なら大丈夫と取り繕ったのです。町内の人も、若干違和感があったかもしれませんが、何事もなく帰っていきました。

夕方なのか、午前中なのか、かなりあやふやな感じで会話が終わっていたので、翌日わたしは1日家に居るようにしました。

というのも、町内会の集金担当は固定ではなく、半年ごとに変わっていきます。しかも現金回収なので、このチャンスを逃すと支払いが滞ります。町内会に母の状況を伝えていますが、当番制で変わっていくため、隣の家以外はそれほど知らないのです。

町内の方は、翌日午前中にいらっしゃったので、「昨日は失礼しました」とだけいい、わたしが町内会費の支払いを済ませました。見守りカメラ、どうもありがとう!

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今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか