認知症の経過報告(2年と3週・4週間目)ナミダのりんご

サービス担当者会議で、母は2年間こう言い続けました。

冬場はね、買い物できないけど、夏場はわたしひとりで買い物できるから、ヘルパーさんいりません!

ケアマネ、サ責、看護師、作業療法士さん、わたしも含め、何回も聞かされました。しかし、自分で行く事は2年間ありませんでした。少し意地悪なわたしは、自分で行ってないでしょ?というと、必ずこの返事です。

あそこの横断歩道が怖くて、渡れないのよ
会いたくないのに、ご近所さんがいていやなのよ

これは本心でもあるし、自身で買い物できない言い訳でもあります。このお決まりのフレーズを逆手にとって、ある作戦を決行しました。

一度目の失敗

デイサービスでの買い物支援を始める時、わたしは 「買い物大作戦」 という文書を作成しました。(タイトルも本当にこれ)そこには、母が買い物をする時のポイントや癖、ゴネた時にイチコロの殺し文句も書き添えました。

しかし・・・

デイ職員
「買い物大作戦」 どおりやってみたんですけど、娘が明日来るから今日は買い物はいらないと言われまして・・・

そう来たか・・・その切り返しの対処法は書いてなかった(笑)

買い物をしないと3日間は冷蔵庫が空になるんですが、強引に連れて行くこともできず、結局冷蔵庫はすっからかんになったと、後日ヘルパーさんが教えてくれました。餓死されると困るしな・・・と、次なる作戦を決行しました。

自筆で「買い物に行く」と書かせる

母のお決まりのフレーズを逆手に取るべく、デイ前日に母に ”自筆で” こう書いてもらいました。わたしが言ったとおり、母は震える手でペンを走らせます。

・今日は息子が家で待っているので、夕ご飯の材料を買ってくる
・デイ近くの横断歩道は2車線で短いので、安心
・職員のAさんがサポートしてくれるから、安心
・買ってくるもの 豚肉、食パン・・・・

息子のために、夕ご飯を作ってやらなきゃ!という責任感を持たせ、次に横断歩道、外を歩くサポートは大丈夫と不安を取り除き、そして買うモノまで決める、しかも ”自筆で”

わたしに言われたとおり書いたという事実は忘れ、最終的には自分が書いたように思わせる自筆作戦!(どうだ!

デイ送迎の時に職員さんにこの自筆の紙を渡し、ゴネたらこれを見せるように言いました。7時間後、母が帰ってきました。

帰宅した母

デイ職員さんが母を連れて帰宅、その手には2つのレジ袋がありました。

「いやぁ・・・デイ職員さんの手を借りながらも、自分でやっと買い物してきたよ!」

心の中で叫びました。レジ袋2つは多すぎなんですが、実はデイの方には買い過ぎOKと伝えてありました。この買い物はモノを買う行為ではなく、認知症と手足のリハビリとわたしは考えているからです。

レジ袋を開けると、そこには頼んでもいないものがいろいろと入っていました。季節はずれのリンゴを1袋見つけました。認知症の母はリンゴをむくのが好きで、それはたぶん息子に食べさせてあげたいという気持ちの表れです。

夕食の時、リンゴがおかずと一緒に食卓に並びました。

季節はずれなんで高いリンゴ、しかもモサモサしている・・・でも不思議とうまい、なぜ??自分で買い物して来た特別なリンゴなんですよね・・・ヘルパーさんが買ってきたリンゴじゃないんですよ・・・

2年間買い物に行く、行かないっていろいろやってきて、それがデイ拒否という事がきっかけで、自分で買い物行くようになって、一度は買い物拒否して・・・・リンゴをかじった時、走馬灯のように2年間がフラッシュバックしました。

不惑の男の子(おじさん)なので泣かないけど、心の中ではナミダのりんご。

でもでも・・・・

来週は買い物拒否している可能性があるのが、認知症・・・買い物ができたから、今日はよしとしよう!!

夕食が済んで、母は皿洗い。わたしはテレビを見てくつろいでいたら、母が何かを持ってきました。

そう、またリンゴ!さっき、食ったばっかりでしょ!4個あったリンゴは、翌朝にはなくなりました。息子のためとはいえ、むきすぎだろ!(笑)

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか