2か月ほど前の、ある夏の日の朝のおはなしです。
「コップに1杯、冷たーい水持ってきてぇ~」
庭の手入れをしていたわたしは、母に声をかけました。朝8時だというのに、すでに30度を超える猛暑。わずか10分の作業で汗だくになり、ひと休みついでに水をお願いしました。
90歳で亡くなった祖母は、庭の手入れが大好きでした。今でこそ松やもみじ、梅の葉が青々と茂った立派な庭になりましたが、つい3年前までは緑のない庭でした。
なぜか・・・
認知症だった亡くなった祖母は、必要以上に葉や枝を切ってしまう人でした。来る日も来る日も切り続けた結果、すっかり緑は消えてしまいました。そんな祖母は子宮頸がんが見つかり、入院。切る人がいなくなった庭の緑は少しずつ復活し、3年経った今は剪定が必要なレベルにまで成長していました。
祖母が亡くなって、庭をひとり毎日眺めている母も認知症。成長し過ぎた木々が、気になって気になって仕方がなく、毎日のように「庭の手入れをしなければ」と言う母。しかし、手足の不自由な母は、自分では作業ができません。そこでわたしが、庭の手入れをすることになったのです。
手が震え、そして足も不自由なので、コップの水が波打ちます。こぼれないように気をつけながら、台所から水を運ぶ母。
「ほら、水!」
「(お、忘れてなかったなと思いながら)ぷはー、うまい!ありがとう!」
冷たい水を一気に飲み干した後、コップを母に返して再び庭作業を始めました。3年間放置された庭は、1日では終わらないレベルまで生い茂っていました。これは1週間くらいかかるかな・・屋根より高くなった梅の木を眺めていると、再び母が縁側から顔を出してこう言いました。
「ほら、暑いでしょ、お水持ってきたわよ」
1リットルのペットボトルを持ってきてくれました。水を飲み干してから、5分と経っていなかったのですが。そして、量がめちゃめちゃ増えてる(笑)
「・ ・ ・ ・ ・ 」
「ど・・・、どうもありがとう!」
1口だけ飲んで、ペットボトルは窓際のカーテンの影に隠して、再び庭作業を始めました。首から掛けたタオルは、10分も経たないうちに汗でびっしょり。連続して作業できない程の暑さにうなだれていると、三たび母から声をかけられました。
「大変でしょ、少し休みなさい!」
手元には、水の入ったコップが。
「えっ・・・・あ、ありがとう!」
既に2度、息子に水を持って行ったことを忘れてしまった母。しかし、息子を心配する気持ちは忘れていませんでした。
さすがに飲めないので、母が居なくなった事を確認してコップの水を木の根元にソッと撒きました。カーテンの影に隠しておいたベットボトルも、庭に撒きました。
「さっきも、持ってきたでしょ!」
つい言いたくなるこの場面。しかし、何度も繰り返される母の優しさに対して、怒りは全くありませんでした。それどころか、なんか泣けるぞ・・・これ、そう思いながらも、最後はつい笑ってしまいました。
認知症になっても親としての役割を必死で果たそうとする母の行動に、親としての優しさを感じたある暑い夏の日の朝の出来事でした。
今日もしれっと、しれっと。
はじめまして
時々拝見させていただいています
今回のお母さんのやさしさに、忘れていた何かを思い出したような気がしました
認知症は、厄介な病気であるということだけで、負の感情ばかりを感じていました
ですが、くどひろさんの今回の記事を読んで、とってもとっても感動しました
幾つになっても母は母なんだと。。。
理解力の低下で、こちらが幾ら説明しても理解してもらえない事が多く、会話もあまり
成り立ちません。
でも、こういう場面に遭遇しても、私自身だったら感情的になってしまう事が多く
ハッとした次第です。
いつも、お母さん傍らでやさしく微笑んで、お人柄が忍ばれます。
私は、カチカチ頭ですので、一歩引いてみることができません。
それを気づかせていただいた気がしました。
有り難うございました。
モカさま
コメントありがとうございます!
スパムコメントが多く、承認制にしております。コメントをどうぞのところの文言を変更しました、ありがとうございます。
そうなんです、どんな状態にあっても母は母なんですよね。息子はすでにいいおじさんなんですが、それでも子育て真っ最中みたいな対応するところが、いかにも母親ですよね。
これからも気軽にコメントください、引き続きよろしくお願い致します!