認知症専門ナースケアマネ・市村幸美さんの3月発売の新刊「心が通い合う認知症ケア(日総研)」を読みました。
市村さんは、わたしの本でご紹介した「認知症看護認定看護師」という認知症分野において熟練した看護技術の資格をお持ちですが、あまりそこにはこだわってなくて、フリーランスとしてご活躍中です。
国家資格を印籠のようにかざす人もいますが、わたしは「資格で人を判断するな」というスイッチが入ります。資格は入口でしかなくて、情報を資格取得後もマメに収集されているのか、もっと言うとその人の人間性が大切です。市村さんの資格へのこだわりのなさも、すごいところです。詳しくはわたしも愛読中の無料メルマガをどうぞ。
版元である日総研さんは医療・介護職のプロの方にはおなじみの出版社かもしれませんが、介護家族はあまり目にすることがないかもしれません。いわゆる専門書で医療・介護職の方々がこの本から認知症を学ぶのですが、介護家族なりの読み方があります。
プロがプロにどんな認知症の話をしているのか、わたしなりの本の読み方をご紹介します!
読みどころは第4章「グレーゾーン」
市村さんの言うグレーゾーンとは、
報道で取り上げられるような明らかな虐待が介護現場で多いわけではありません。しかし、実際には、「虐待(黒)とは言えないけど非虐待(白)とも言えない」という「グレーゾーンのケア」というものが存在し、このグレーゾーンのケアは日常茶飯事に行われています。
引用元:心が通い合う認知症ケア(日総研)
介護家族は、一瞬「えっ?日常茶飯事?」って思うでしょうね。
具体的なグレーなケアとは、認知症の人に声をかけられても聞こえないふりをしたり、おむつが汚れてることが分かってても、次のおむつ交換までそのままにするといったことなど、いろんなケースがあります。
わたしも同じ対応をしてしまうことがありますし、家族なら思い当たる節が必ずあると思います。しかし、病院・介護施設に預けている家族はお金を払っているからなのか、病院や介護施設は間違いのないところと思い込んでいるのか、こういったケアは行われてない、もしあったら「許せない!」と考えます。
わたし個人の意見は、こういった事実も受容したうえで、施設や病院にお願いする覚悟を家族はしないといけないのだと思います。自分で在宅介護したって、やっぱり自分自身への妥協は必要ですし。そこで完璧を求めたら介護は長続きしないし、うつ化してしまいます。
医療・介護職の皆さんが、こういう気持ちで仕事をしている、倫理との葛藤に悩んでいる、人員不足、教育不足など職場特有の条件で苦しんでいるということを、この本を読んで介護家族も知っておくということが大切なんだと思います。
病院・介護施設の経営者に対しての不満を、ご自身のスキルアップやメンタルでカバーする現場職員も多くいますし、とても勉強熱心な方もたくさんいます。一方でそういった条件化で飲み込まれ、モチベーションの下がった職員もいます。もちろん命を扱っているので特別なところもありますが、仕事で忙殺されるとその気持ちすらも薄らぐ・・・医療・介護職だって一般的な事業会社と同じで、玉石混交なんですよね。
特に、4章を読んでみてください、家族はきっと「うーん」と思うでしょう。でも現実ですし、医療・介護に対しての理想の基準が高すぎるとわたしは思います。医師の認知症誤診だっていっぱいあるし、介護施設だって常に100%の介護サービスが提供されるわけではありません。
こういう葛藤は医療・介護職同士の勉強会やイベントでは当たり前にシェアされていても、家族の前では絶対に言えない話です。だから家族は先回りして、こういった本で現実を知るべきだと思います。医療・介護を委託すると決めた以上は、一定のリスクも頭に入れておかなければいけないということだと思います。
この本は、市村さんの講演を受ける時のテキストになるのだろうと推測しました。最初に認知症の基本を押さえておいて、そこからのグレーゾーン。市村さんは専門職向け講演が多いですから、家族は本で疑似講演を受けることができるかもです。
市村さんはトークも面白いので、今度は専門書でなく、ご自身が考える認知症への思いを一般向けに出版して欲しいと思いました。
今日もしれっと、しれっと。
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