認知症介護にまつわる「恐怖のタオル」のはなし

わが家のタオルは、恐怖に満ちている。いや、満ちあふれている。

朝、顔を洗って、タオルで拭くとき、ピリッとした緊張感が走る。

パターンは3つ。1つは、母が乾いていないタオルを取り込み、生乾き状態で畳んで棚に戻してあるとき。タオルに顔をうずめた瞬間、ゾンビ臭が駆け抜ける。(←あのライオンさんがゾンビに例えているが、ゾンビのニオイはもちろん嗅いだことがない)

2つ目は見た目はキレイ、だけど母が洗剤を使わず洗濯して畳み、棚にしまっているケース。生乾きのゾンビ臭はないものの、洗剤のニオイもないので、あ、洗剤忘れたな!となる。

3つ目は、この世の地獄。母が尿失禁で使ったタオルを洗濯せずに干し、そのまま乾かす。そして棚にしれっと戻す。わたしがそのタオルで顔を……。

今でこそ、タオルニオイチェックをしてから使っているので問題ないが、最初に地獄タオルを使ってしまった画を想像して欲しい。ギャーーー! 稲川淳二師匠、怪談ナイトライブで披露してください、よろしくお願いします。

わが家には、他にもタオルトラップがある。

台所に潜むタオルトラップ

台所のシンクそばに、手拭きタオルが掛けてある。(記事タイトル下の写真がそれ)

手を拭こうとすると、なぜかあり得ないぐらい水分を含んでいることがある。どうしたら、これほどまでに水を含むのか?手を100回洗って拭いたらきっと、こんなふうになるだろう。

タオルが水を大量に含んでいる場合、問答無用でそのまま洗濯機に入れ、新しいタオルに替えている。

理由が知りたくて、わたしは自分の部屋(2階)から、1階の台所の母の様子を、見守りカメラでひたすら観察した。

まず母は、料理や食器洗いのときに、手拭きタオルを「普通に」使う。

次にそのタオルを使って、台所の作業台の水滴を取る。シルバーのキッチン台は水しぶきひとつない、キレイな状態になるのだが、その代償としてタオルだけがずっしりと重くなる。

そのずっしりタオルが、まさかの食器拭きのところに掛かっていることがある。手拭きタオルとして使われたタオルは、台所の水滴をしっかりとり、最後に食器拭きとして使われるのだ。

その食器を使って、わたしや母がしれっと食事をする。ギャーーーーー!

さらに食器拭きは、台所の床に食材が落ちていようものなら、その食器拭きで床まで拭く。

もはや、工藤家のタオルは、なにひとつ信用できない。時代劇によく出てくる「信じてくださいよ~、だんな~」っていう、あいつくらい信用ならないのだ。

わたしが母と一緒に居るときは、マメにタオルチェックをしているので、フェイスタオル、足ふき用タオル、トイレの手拭きタオルなど、だいたいタオルの役割は決まっている。

認知症の母にはその概念がないので、お風呂の足ふきタオルが台所の台拭きになったり、フェイスタオルになったりと、タオルがカオスになっている。母にとっては、すべて「ただの」タオルでしかないのだ。

お風呂の足拭き用マットが、台所の台拭きになってしまった写真

恐怖タオルの解決策は?

わが家では、ニトリの使い捨てふきんを使い始めた。いわゆる「ダスター」と呼ばれるもの。

ニトリの使い捨てふきん

ある程度ボロボロになれば捨てればいいし、わたしは積極的にダスターを活用している。しかし、母の記憶にダスターは存在しないので、ダスターを洗濯したり、干したりする。使い方を説明しても、使い捨てふきんだよといっても、残念ながら理解できないほど、認知症は進行している。

干してもいいんだけど、母の中では他のタオルと同じ扱い

ダスターで台所を拭いてくれるといいのだが、食器を拭いてしまうことも。先日はわたしの箸をダスターで拭いて、

はい。このキレイな箸を使いなさい

聖母マリアのように微笑むから、一瞬「はい」って答えそうになったが、すぐ「ギャー、だめだって!それで拭いたら」となった。

認知症になって、タオルの使い分けが全くできなくなった。かといって、この件に関しては解決策がない。タオルにマジックで目的を書こうかとも思ったが、やっていない。

母を厳しく監視して、タオルを一切触らせないということはしたくない。うまくカオスな状況に順応し、ワー、キャー言いながら、今の状態をキープしたい。それに、ひとりで生活しているときは、どうしてもカオスになってしまう。今のところ健康に問題はないのだが、心配ではある。

ブログ読者の皆さま、暑い夏に少しヒンヤリして頂けましたでしょうか?

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

4件のコメント

介護ブログ(5,703サイト) 28位

応援の村ポチです。
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ありがとうございます!

分かります!
なぜか実家へ2週間後に帰省すると、当時準備していた白く新しい台拭きタオルが、既に茶色なっている、なぜ?
よく観察していると、食後のテーブルを拭き、床を拭き、最後に食器を拭く、なぜ?
なぜ、食器が最後なの?うぎゃあ〜〜!

速攻でそのタオルはゴミ箱へ。無限ループかもしれないけど、また白く新しい同じタオルを出すしかない(その型のものが台拭きだと思っているから)。
介護帰省する度に、繰り返す作業の一つです。
衛生的な問題で、夫や子どもの実家帰省を、出来るだけ避けたいと感じる日々を過ごしてます。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか