認知症と骨折のダブル介護で我慢の限界を超えて大爆発した話

くどひろ

もうね、重度のアルツハイマー型認知症なの!

母には「認知症」ではなく、「もの忘れ」と言葉を濁し続けて11年半も経ったのだが、ついに面と向かって言い放ってしまった。認知症ご本人に、認知症と伝えるメリットはないと言ってきた自分が、やってしまった。

我慢の限界を超えて、大爆発した1週間の経緯をお伝えする。

骨折したことをすぐに忘れてしまう母

  1. 重度の認知症で、自分の骨が折れていることを忘れる
  2. 骨折した箇所に巻いている包帯とシーネ(添え木)の意味が分からず外す
  3. 外した状態で歩き出し、痛い痛いと大騒ぎする

ちょっとでも目を離すと、こうなる。医師から「認知症だから、包帯を外すのはやむを得ない」と言われている。でも骨折している人がギブスやシーネを外して無防備に歩きだしたら、普通は放置できないし、ゾッとするし、ギャーって言うと思う。ドキッ、ゾッ、ギャーの連続。

特に朝がやばい。寝ている間に包帯を外し、しれっと起きて普通に行動する。いつも通り靴下を履いて、痛い痛いと言いながら歩く。だから朝4時に起きて、母が歩き出さないよう布団の中で見守りカメラを起動して、いつでも駆け付ける準備をしていた。

夜は寝たかなと思ったら、ムクっと起きて包帯を外す。夜間は必ずトイレに起きるので、寝る前に包帯とシーネをして、寝てもらわないといけない。見守りカメラで寝室の状況が分かるので、寝る前に包帯を外したら巻き直し、しばらくしてまた外して巻き直しの繰り返し。

いっそのこと、全身をぐるぐると包帯で巻いてミイラにしたほうがラクかもと、妄想で身体拘束してしまった。基本この状態がずっと続きつつ、さらに3つの事件が重なった。

そんなところでおしっこする? 事件

母が歩かなくていいよう、3年前から使っている寝室のポータブルトイレを居間に移動した。使い慣れているから安心かと思いきや、そうではなかった。母はトイレが認識できないのだ。

朝の隙間時間を使って、2階の自分の部屋でメールの返信をしていた。つい夢中になって、20分ほどカメラから目を離した隙に事件は起きた。

しまった!と思って、居間のカメラを見たら、母がティッシュで自分の股を拭いていた。母の目の前に置いたポータブルトイレを使っていれば、そうはならない。状況が分からないので、カメラの映像を5分前から確認。すると母はコタツの板の上に座り、おしっこをしていた。

まさかこのコタツ板に座って、おしっこするとは!

上の写真のとおりコタツ板は水を吸収しないので、コタツ布団の四方に尿が散乱。しかも母は板の上の尿をティッシュで拭いてゴミ箱に捨てたので、ゴミ箱にまで尿の被害が拡大。「ちょっとー、何やってんのー!」と怒ってしまったが、母は何がおかしいのか分かっていなかった。

母の気持ちは、少しだけ分かる。リハパンを履いていても、間に合うならトイレでしたい。つい最近も便をチラシの上にして大変な目にあったばかりだが、リハパンは便を吸収しないのでそっちはよく分かる。でも尿はコタツの上ではなく、いつもどおりリハパンにしてよ。

コタツ掛布団は1枚しかなく、布団がなくなったことで包帯の足が丸見えになり、さらに包帯を外すリスクが高まってしまった。早くコタツ掛布団で、足を隠さねば!

掛布団を取ったので、包帯の足が丸見えに!

コタツ掛布団を下洗いして、敷布団は上の写真のとおり、昔のボロボロのものに交換。掛布団を自転車のカゴに押し込み、近くのコインランドリーまで猛ダッシュ。乾燥まで含めて80分かかるので、急いで家に戻った。

めちゃくちゃ怒りつつ、怒ってもしょうがないと分かりつつ、しっかり写真は撮っていた。ネタとして、しっかり回収してやるんだ!

治療が完了した翌日にまた入れ歯が割れる

コタツ事件から2時間後、訪問薬剤師さんが来る時間が近づいていた。母の入れ歯を磨いていなかったので、自分が台所で掃除をした。上の入れ歯にブラシを当てたところ、「パキッ」という音が。「ウソ? 昨日歯医者に行ったばかりなのに! 下の次は上?」

実は前日に、下の入れ歯を治したばかり。介護タクシーの予約ができなかったので、自費で車椅子を借り、母を乗せて近くの病院まで押して行って治療を終えたばかりなのに、今度は上の入れ歯が割れるなんて、どういうこと? しかも休診日で、何もできない。

上の入れ歯をはめられないので、噛まなくていい食材の買い物に急きょ変更。さらに翌日に行くデイやお泊りデイに連絡をして、食事の工夫をお願いした。

そして訪問薬剤師さん到着1分前に、母の便意が。この時はポータブルトイレに座ってやってもらってセーフだったが、妹のときは居間のゴミ箱にした。

訪問薬剤師さんに「今日は本当についてない」とさんざん愚痴ったあと、自転車でコインランドリーへ向かい、コタツ布団を回収。元に戻したら、母は自分の足を気にしなくなった。

なぜエプロンに? 事件

入れ歯事件から5時間後、たった5分の電話の間に事件が起きた。母は目の前にあるポータブルトイレをまたスルーして、足を引きずりながら台所まで移動。リハパンを下げ、椅子の上にエプロンを敷いて座っていた。

コードレスの固定電話で相手と話しながら、エプロンを見ると便がべっとり。そのまま椅子に座ってくれたほうが処理はラクなのに、今日はいちいち一仕事増やしてくれる。

しかも太ももやふくらはぎにも便がついていて、それらをおしりふきで拭って、新しいリハパンとズボンに履き替えてもらった。耳と首の間に、コードレス電話を挟みながら。

エプロンは、定番の消臭ストロングですぐ落ちた。朝からの積み重ねで怒り狂っていて、おしりふきにまでムカついたので、今度その話をブログに書こうと思う。おしりふき、本当に腹立つー!

実は前日夜もリハパン交換中に、母が目の前で尿をして大慌て。交換中だから守るものが何もなく、畳の上の尿の池がどんどん大きくなっていったので、近くにあった防水シートで何とか阻止。でも直径30cmくらいの大きなシミができて、クエン酸&ドライヤーで復旧した事件も付け加えておく。

前日夜からのイレギュラーな場所での尿便失禁の連続、それに伴う洗濯や掃除、包帯の巻き直し、無防備な状態で骨折した足を使って歩く、入れ歯の破損が重なった結果、とうとう感情が抑えられなくなって、隠してきた事実までハッキリ言ってしまった。

介護者の自分を責めないようにしている

介護歴が浅い頃なら、きっとものすごい罪悪感に襲われていたと思う。でも今回は罪悪感はなく、自分を責める必要はない、口は悪いが手はちゃんと動かしていると、自分を褒めた。

どんなに怒り狂っても、介護は放棄していない。認知症とハッキリ伝えたあとも、包帯外しは死守しているし、やるべきことはやっている。それこそ変に骨がくっついて歩けなくなったら、在宅介護はこれで終了。口は暴走しても、手が冷静であれば問題ない、そう解釈するようにした。

わたしにハッキリ言われても、母は認知症についてよく理解できていないし、なんなら自分ひとりで生活できると思っているので、認めていない分意外とノーダメージだったかも。本当のところは分からないが。

今後はたまに「認知症」を、日常会話の中で話していくつもり。私自身、変なストレスは溜めないようにしようと誓った。この段階までくると、介護者の自分も相当いたわらないと在宅介護は続けられない。

足の腫れはだいぶ引いてきたし、このひどい状況から脱出するための介護の工夫をめちゃめちゃ考えて実践しているので、だいぶラクになった。見通しは明るい気がする、たぶん。

今日もしれっと、しれっと。


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4件のコメント

おひさしぶりです。くどひろさん。大変でしたね。
私はもう母が旅立ってから5年も立っていますが未だに何かある度に介護の日々を思い出します。

私も母に「バカ」だの「ボケ」だの言っていました。介護の本には言ってはいけないと書いてありますがそんなこと守れるわけがありません。
ひどいときは「頼むから死んでくれ」といったことさえありました。
もうそこまでいくと疲労で自己嫌悪なんか考えてられません。

私はそういうときは自分と母、どっちが生き残ったほうがいいかと考え、もちろん自分優先なので自分になるんですがw自分が正しいことにしてました。
介護の期間より介護の終わったあとの方が絶対長いんだからと思って。

くどひろさんも最終的にはご自身を大事になさってくださいね。

syumitektさま

あら、大変ご無沙汰しております!

そうなんです、わたしも自制しながらもいけないことたまに言ってます。ありがとうございます、自分を大切にします。

こんにちは。
いつも拝見させて頂いてます。

私も認知症の母を在宅介護している時は、暴言をよく吐いていました。

お気持ちよく分かります。

認知症のかかりつけの先生には、
怒る位なら人に任せたほうがいいよ。
お互いの為にね。と言われてハッとした事があります。
やむを得ない事情で、今は施設にお世話になっていますが、認知症の母を凄く可愛く愛おしく思える自分が居ます。
不思議なものですね。

くどひろさんもご無理なさらずに、できる限りの在宅介護を応援しております。

ライリンさま

こんにちは。

距離をおけると愛おしく思えるかもですね、わたしの場合はそれが遠距離介護という形でリセットされています。

応援ありがとうございます、しれっと介護を続けていきます。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか