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「ありがとうが言えない」認知症の母にとって感謝のメッセージがこんなにも遠かったというはなし

認知症 文章

NHKスペシャル・認知症革命で紹介された、島根にある重度認知症の方のデイケア「小山のおうち」。認知症ご本人に手記を書いてもらうという内容で、「重度の認知症の方でも、想像以上に書く能力がある」という話が頭に残ってました。

★★

1年7ヶ月もの間、訪問リハビリでお世話になった作業療法士のAさん。 わが家のリハビリを部会で発表したいということで、資料確認を家ですることになりました。

20代のAさんはご懐妊で、4か月ほど前に突然のお別れとなりました。あまりに急だったので、きちんとお礼も言えずにいました。

1日目

くどひろ
Aさん、3日後にうちに来るんだってよ
Aさん?だれ?何しに?いつ?

すでに新しい方がリハビリを担当されているので、なかなか思い出せない母。

Aさんの写真を見せると、「あぁ~、あのかわいい人ね」と思い出しました。名前を教え、今までどうお世話になったかを説明し、いらっしゃる日時を伝えました。

すると母が「何かお礼をしたいね」と珍しくいいことを言うので、メッセージを書くことになりました。早速、メッセージカードを購入し、母に渡しました。すると、

今日は忙しいから、明日書くわよ

カードをしまいこんでしまいました。

2日目

昨日渡したメッセージカードを見た母は再び、

これなに?Aさん?何しにくるの?いつ?

2日目の時点で40回、質問されました(笑)あまりにすごいので、10回目以降は疑問をすべてメモメモ法で対応しました。その場では理解するものの、見たことないカードが気になるようで、質問が止まりません。

「やっぱり新しいことをしようとすると、混乱するんだなぁ」

そう思いました。書きたいこと、思いついた?と聞くと、母はこう言いました。

今日は忙しいから、明日書く(毎日が冬休みですが・・)
今は気持ちが乗らないから、あとで書く

言い訳に言い訳を重ねて、なかなか書こうとしません。そこで違う角度から、攻めてみることに。

くどひろ
あれだけ筆まめな人だったから、楽勝でしょ?
これくらい簡単よー

簡単と言いながら、ペンをもつ気配ゼロです。でも、自分はまだまだ書けるというプライドは健在です。2日経っても、1文字も書けません・・・

3日目

明日はいよいよ、Aさんがいらっしゃる日。ところが母の質問は止まらず、今日で60回越え・・・今までで一番ひどいレベルでした。なんでメッセージが書けないのか・・・理由を考えてみたのですが、

  1. そもそも作業療法士さんとの想い出が分からない
  2. 書こうとすると、名前も顔も忘れる
  3. 何でメッセージを書く必要があるのか、目的を忘れる

確かに感謝の気持ちを伝えられるのが、難しいです。

冒頭のNHKスペシャルの話を覚えていたわたしは、母は簡単にメッセージが書けるだろうと思ってました。Nスぺの方は重度で、うちは軽度。書けないはずはないと。ところがやってみると、3日経っても1文字も書けません。

よくあることですがテレビや本にある認知症の話が、母には当てはまらない・・今回もそのパターンでした。

わたしが文章を考えようかと一瞬思いましたが、それでは意味がありません。母の前にAさんの写真を置き、あと3時間で書かなければアウトというところで、やりたくなかったのですが荒療治をしてみました。それがこちら。

21時までに書かない場合は、あきらめます!

紙に書いて母の前に置いてみると、効果てきめん!くやしさに火がついたようです。

あと、3時間しかないの?なんで、早く言ってくれないのー、もう!

え゛ーーー、60回以上伝えたけど(笑)面白すぎて崩れ落ちた直後、母は突然メッセージを口で言い始めました。

くどひろ
それ、今の!早くペン持って、紙に書いて!!今のコトバ、すごくいいから!!

絶対に忘れるので、すぐに下書き用メモ用紙に書いてもらいました。

「このチャンスを逃すまい!」

そんな気持ちでした、3日待ちましたから(笑)褒め方が尋常じゃなかったようで、母はノリノリになり下書きを始めました。連続した文章は思い浮かばないけど、1行単位で何かを書いていました。

できたメッセージカード

母は字が上手です。ただ力がないので、銀行の複写伝票ではいつも複写されません。今回はカードとペンの相性がよく、うまくかけたと思います。

ごくごく普通に見えるこの文章は、いつもAさんとリハビリをしていた時に言ってたコトバ、そのままでした。

やさしいよね かわいいよね 生まれ変わったらあなたみたいになりたい

毎週毎週、お世辞でなくこれ言ってました。20代女子の輝きに触れ、いつも憧れていたようでした。どれくらいの期間、お世話になったか分からないので、”長い間お世話になりました” と逃げるあたりも完璧でした。

あとで母が書いた下書きメモを回収したところ、こんなことが書いてありました。(上の1枚目の写真をよーく見ると、書いてあります)

お世辞ではありました??(笑)

やさしいとか、かわいいとか、お世辞だったんか?? 面白い間違いをしてくれて、また笑いました。

Nスぺの手記も、施設職員さんは相当大変な思いをして書かせたんじゃないか?そう思いました。文章が書けなくなる認知症の方もいらっしゃると聞きますが、うちはまさにそうでした。

昔、ひとこと日記を書かせようとしたことがありましたが、あの時もうまくいきませんでした。「ありがとう」たったこれだけの気持ちを書くのに3日もかかる・・・まったく予想できませんでした。

その次の日のこと

翌日、母と話すと、誰が家に来たかも忘れているし(別な人に置き換わっている)、メッセージを渡したことも内容も忘れてしまっています。

ただ・・・ただ、あの瞬間に浮かんだあのメッセージは、本物でした。

よくぞ思い出してくれた!という思いと同時に、認知症の切なさをあらためて思い知らされました。その瞬間を生きているって、きっとこういうことなんだろうな そういう体験でした。

今日もしれっと、しれっと。


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6件のコメント

はじめまして。
あるあるネタや日常の出来事にニヤリとしつつも、介護の知識や向き合い方などいつも勉強させていただいてます。

私の84歳の祖母も一人で手紙を書くことができません(数年前までは好きであちこちに手紙を送っていました)。
本は読むし人と話すのも大好きなんですけど「頭で文章を組み立てながら同時に手先を動かす」という行為が今ではハードル高いみたいです。
最近は、楽しいことや嬉しいことがあった時だけ日記を書いてもらってて(ポジティブな出来事だと筆が進み易いので)、
まず先に「今日の出来事」「思ったこと」等を本人に聞いて、私がそれらを文章に整理して伝えて改めて本人が書くという感じですが、
それでも三行程度で重労働みたいです。孫としては「書く力」が残っているなら是非使って欲しいんですけどね~~~

長文で馴れ馴れしく感じられたらすいません。よろしくお願い致します。

ヘビーローテンション よくわかりま~す。
しつこいな~と感じたら、いったん姿を隠します…。逃げるように。
さっき、88歳の父(要介護3)が、自分の名前が、書けるか確認してきたところです。
へろへろ文字だけど、どうにか書けました。メモ紙の端っこに。

ヘッポコ丸さま

いつも読んで頂いて、ありがとうございます!

ポジティブな出来事を書いてもらうというのが、とてもいいですね。整理して伝えるというサポートもいいですね、勉強になります。
どうぞ馴れ馴れしい感じでコメントしてください、むしろそういう感じのほうがありがたいです。

今後ともよろしくお願いします!

ハルキさま

コメントありがとうございます!

確かに名前は、うちも書けます。住所や生年月日なんかもうまくいくのですが、文章がなかなかハードルが高いです。ヘビロテな毎日ですが、楽しくやっております。

今後ともよろしくお願いします!

くどひろさん、こんにちは。
時々ブログは拝見していましたが、はじめてのコメントです。
私の母も認知症。昔は文章も上手で短歌もうまかった母ですが、ここ最近は本当にこの話ののくどひろさんのお母様と同じような感じで「う~ん、そうそう、わかるわぁ!」と思いながら読ませていただきました。
文章に限らず、何かこうしたいという思いはあっても、うまく整理して組み立てるということができなくなっているように思います。でも、こんなふうに何とか工夫していったら、ちょっぴりまた自信を持つことができるのかもしれませんね。
さっそく明日、試してみようかなと思います(^^)

けろぴぃさま

ブログ読んで頂き、そして初コメントありがとうございます!

おっしゃるとおりです、整理して組み立てるのは苦手です。忘れかけた何かを習慣化して、それでまた自信が持てるようになったら最高ですよね。

今後ともよろしくお願い致します!

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ABOUT US

工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。岩手にいる認知症&難病(CMT病)の母(78歳・要介護2)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて10年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。
【著書】親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)ムリなくできる親の介護(日本実業出版社)医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか