70代の認知症の母が、北海道初上陸で「おいしい!」と言ったもの

今年の3月、本を執筆しているころに、ひとつ決めていたことがあった。

それは、自分の本の販促活動が終わった秋ごろに、「函館」へ母を連れて行くことだ。

北海道新幹線が今年の3月26日に開業したので、70代で初北海道を体験してもらおうと考えたのだ。

親孝行と思う方もいるかもしれないが、自分はそう思ってない。脳への刺激、何かいい方向へ変化するかもしれないわずかな期待、歩く筋力アップを意識している。北海道に一緒に行った記憶を残したいという、淡い期待もある。

わたしは、異国情緒漂う函館が大好きで、これで3回目。いわゆるベタな観光スポットは、行ったことがある。

しかし、足が不自由な母と行くとなると、最短距離での移動を考えないといけない。意外と逆バリアフリーなところは、盛岡の時点で多く、それを回避すべく、タクシーを使いまくった。今回もいつもどおり、常に腕を組み、カップルのように行動した。

ふつう、函館へ旅行にいくのなら、温泉で1泊とか考えるのだろうが、うちはそんなことはしない。男らしく「日帰り」、クールポコのネタになりそうだ。

そもそも母は湯船に、何年つかってないだろう・・・手足が不自由で、風呂場での転倒を恐れているのと、認知症の症状である、入浴嫌いもある。だから、温泉はNGワードで、「日帰り函館」を強調して連れ出した。

また、家を長時間離れると、自分の家が昭和40年代に逆戻りする。実家は昭和50年代に増築したので、病院へ行って帰ってくるだけで、増築した家が自分の家でないみたいと言い出す。1泊したら、どうなってしまうんだろう・・・

そんな理由で、朝7時に家を出て、夜7時に家に帰るという、弾丸函館旅行をした。一番の目的は、函館朝市で海鮮丼を食べることだ。弾丸ゆえ、函館山のロープウェイか、函館湾遊覧船、このどちらかをこなすプランにした。

ただ、プランをきっちり立てると、プランを消化できない「いらだち」をわたしが持つ可能性があるので、あくまで母に聞きながら行動した。その結果、童謡「むすんでひらいて」の替え歌みたいになった。

あるいてやすんで、お店みてやすんで♪ 最後のほうは、歌詞が「やすんで」ばっかりになっていた。

15年ぶりの函館朝市は、以前よりも活気がない気がした。以前は、殻付き生うにをその場で食べたり、焼ガニもあったが、あまりそういう光景はなく、時期の問題かもしれない。

目的の海鮮丼を食べたのだが、母の反応はいたって普通。「あー、おいしかった」だけだった。

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そのあと、朝市を歩いたのだが、「むすんでひらいて」状態は続く。1分おきに「疲れた」という。靴を履くと歩けないと思い込んでいるので、ほらカニ!イカが泳いでる!メロン!と、興味をそっちにそらし、ひたすら歩いてもらった。すると、

車どこ?そろそろ家に帰ろう

とかいう。函館朝市ではなく、盛岡の海鮮市場に車で来た(ないけど)感覚になっていた。函館の文字を指さして、

くどひろ
ほら、函館!北海道!

と何度も言った。その場では理解するのだが、数分すると盛岡に逆戻りしていた。次に函館湾を遊覧すると、遠くに山が見えた。

あれ、岩手山!

岩手で最も高い山(2038m)だが、さすがに北海道からは見えない。岩手の山脈と勘違いしている。母をもし東京に呼び寄せたら、見えないはずの岩手山の話を、毎日するんだろうなと思った。

そして、海の上では、

ここ、何の川?湖?
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どうも、海の上にいる感覚がないらしい。結局、函館を歩いていても、岩手にいるもんだと思い込んでいるし、タクシーに乗っていても

あれ、ここ通ったことある

とかいう。最近、盛岡LOVEが加速していて、何でも盛岡と比較してしまう。郷土愛が深くなるという認知症の症状があるのか?と思うぐらいだ。

母の錯覚を少し理解できるところも、実はあった。それがこの写真。

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函館駅の中には、大谷翔平くんがいっぱいいた。北海道日本ハムファイターズのエース、大谷くんが東北に来てと言っている。母にとっての大谷くんは岩手のスターだから、岩手にいる感覚になったのかもしれない。

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そして、北海道初上陸のほかに、もうひとつ母の初体験があった。

それは、70代にして初のスタバデビューだった。砂糖いっぱい、極甘ネスカフェコーヒーが好きなので、スタバでは甘いと思われるショートのホットカフェモカを飲んでもらった。

函館湾クルーズの出航時間までのスタバ時間つぶし、チケットは1枚1800円。結構するんだ。
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ちなみにかっぴーさん著の「SNSポリスのSNS入門」という本を最近読んだのだが、SNSあるある満載でちょっと笑える。

かっぴーさん曰く、スタバでMacbookでライフハックして、インスタで撮る・・これらが2つ以上揃ったとき、人はイラだちを覚えるらしい・・・上の写真は、スタバだけだから、セーフ。

カフェモカを一口飲んだ母は、こう言った。

なに、これ!おいしい!
くどひろ
え、なに、そっち?

海鮮丼を食べ、メロンも食べ、ソフトクリームも食べた、いわゆるTHE・北海道を堪能したはずなのに、今日イチで美味しいと叫んだのは、まさかのスタバ。

大谷くんの164kmのまっすぐを待っていたのに、エグイ高速スライダーを投げられた気分。いいネタを提供してくれてありがとう・・・

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか