大ピンチ!認知症の母の前に現れた謎の女性とのやりとり

19時30分。

わたしは東京の家でソファに寝転びながら、スマホで岩手の実家の様子を確認していた。
すると玄関先の見守りカメラのLIVE映像に、いきなり見知らぬ女性が!
こんな時間に人が映ることはまずない、誰だろう?

カメラの音声をONにして、母と女性のやりとりを聞き始めたが、話は最後のほうだった。

女性
じゃあ、ご都合のいいときにまた伺います。何時頃がいいですか?
いや、そちらさんの都合でいいですよ。

ん、何が?
女性はそういって帰り、母は玄関の鍵をかけた。
女性はまた来ると言っている、何の用だろう?

すぐにカメラの映像を数分さかのぼってプレイバックし、会話の内容を初めから聞いた。

女性
町内会費の集金に来ました~
あら、ご苦労様です。少々お待ちください。(一旦、居間に戻る)ちょっと細かいのがなくて、明日だったら大丈夫なんですけど。

見守りカメラの連続録画のおかげで、母と女性のやりとりがすべて分かった。こういうときにも、見守りカメラは大活躍する。

まず見知らぬ女性は、わたしの知らないご近所の方で、町内会の集金に来たようだ。
町内会の集金をする人は、残念ながら半年に1回交代する。だから、女性はわが家が初めてだし、もちろん母の認知症のことも知らない。

実家のすぐ隣の方は、わが家の状況を知っているのだが、町内中すべてがわが家の状況を知っているわけではない。おそらく女性は、母との会話に若干違和感を持ったはず。

一方の母は、急に町内会費と言われたものの、自分の財布をすぐに見つけられない。困った母は「細かいのがない、明日なら大丈夫」と取り繕い、その場をしのいだのだ。

女性が「明日の何時に伺えばいいか?」と何回も質問しているのに、母は自分の予定が分からないので、時間が決められない。だから「そちらの都合で」と何度も答えていたが、集金の女性からすれば、そっちで決めてよと思ったはず。これも取り繕い。

結局この日は、翌日夕方17時に再び集金に来ることで映像は終わっていた。しかし、その時間は母ひとりだし、わたしは東京に居る。女性が来ても、母は町内会費のことなどもちろん忘れている。さて、どうやって町内会費を渡そうか。

実は2回目だった町内会費問題

実は今回のような事件は2度目で、前回はわたしが帰省中で外出していたときだったので、カメラで内容を確認して、翌日にわたしが応対した。その時の記事がこちら。

今回、わたしは東京で対応できないので、誰かにお願いするしかない!

ちょうど翌日は訪問リハの日なので、作業療法士さんに立ち会ってもらおうと考えたが、17時にいない。次に岩手の妹に連絡すると、実家に行く予定はあったが、17時まではいないとのこと。

うーん、困った。電話で財布を準備するよう母にお願いしても、おそらく自分で財布を探せないだろう。近所とはいえ、誰か分からないから、こちらから町内会費を持って行けない。どうやって町内会費を女性に渡せばいいかを考えに考えて、ある答えにたどりついた。

結論はこうだ。まず町内会費1500円を封筒に入れる。そしてその封筒を、玄関の下駄箱の1番上に隠しておくことにした。なぜ隠す必要があるかというと、仮に玄関先に封筒を置いたら、片づけ魔の母がしれっと片づけてしまう。そして片づけたことを忘れて、支払いができなくなるから。

妹に、町内会費の入った封筒を下駄箱にセットしてもらった。そして女性が来たら、見守りカメラを使って、わたしが東京から岩手の実家の来客の応対を直接やる。もう、これしかない!

女性は17時に来ると言っていたが、思いのほか早く来るかもしれない。もしこの瞬間を逃してしまったら、次はいつ集金に来るか分からないし、こちらから連絡する手段もない。

なので、15時くらいからずっとカメラ映像をONにしたまま、東京で待った。よく分からないが、メチャメチャ緊張する。家族以外で、見守りカメラを使った応対をしたことがなかったから。

女性からすれば、玄関のどこかから、知らない男性の声が鳴り響くことになるので、気持ち悪いはず。どう思われるかとか、言ってる場合ではない!

17時5分。東京のスマホから、盛岡の玄関のチャイム音が聞こえた。女性は「昨日の件で来た」と言ったが、母は初見のような対応をし始めた。わたしはスマホのボタンを押しながら、声を出す。
くどひろ
あの~、すみません~
こういうときに限って、カメラから声が出ない。なんで? その間に話はどんどん進み、母は今日もお金が準備できないから、日曜日にと意味不明なことを言っている。女性を絶対帰らせてはいけない。「すみませーん」と言い続けていると、やっとカメラがつながり、声が届いた。

くどひろ
すみません、息子でーす。玄関の下駄箱の中に封筒があって、そこに1500円あるので、確認して頂けますかー

母は足が不自由なので、見知らぬ女性に下駄箱開けていいよと言った。近所の女性が、人の家の下駄箱を開ける。シュール過ぎると思ったが、こっちは必死だ。

女性
確認してみますね~、はい、確かに1500円ありました~
くどひろ
すみません、お手数おかけしましたー、ありがとうございます!
母は息子かしら?と不思議そうにキョロキョロしてるし、女性も声の聞こえる方向に、なぜか礼をしている。仕組みが分からない2人には、不思議な光景だったようだ。見守りカメラよ、ありがとう!

今度こそ、町内会の誰かに相談してみようと思う。でも、町内会は担当がどんどん変わっていくので、うちの状況がシェアされるとは思えない。できれば銀行振込で対応したいが、古い仕組みの町内会だと、対応できないかもしれない。

数年前まで、母は自分で支払いができていた。しかし認知症が進行し、それもできなくなってしまった。カメラを使った声掛けはスムーズではないが、緊急時には使えそう。この事件は無事解決したのだが、実はもう1つ別の事件が同時に起きていた。次回に続く。

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今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

2件のコメント

はじめまして、いつも拝見拝聴しています、在宅のケアマネです。コロナ禍、町内会問題が表面化してますね
集金、回覧板、行事の存続、役員の選出
近隣との程よい繋がりがあってこそ、在宅ひとり暮らしができると思います。
多世代、家族構成のさまざまな地域ほどまとめていく役員の方々のご苦労を感じます。
見守りカメラ導入いただける方も増えてます。
こちらもただ見てきてほしいとの依頼が頻回となる方は見守りカメラをグドヒロさんの事例からご紹介しています。

中村さま

ブログとvoicy両方、ありがとうございます!

確かにただ様子を見てきて欲しいばかりだと、大変ですよね。ぜひぜひ、わたしの事例をご紹介してください。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか