90代認知症男性から1000万円以上窃盗していたヘルパーのニュースに思うこと

岐阜市で、重度認知症の90歳男性(2020年死去)の訪問介護をしていた35歳男性ヘルパーが、金銭の窃盗を100回以上繰り返し、1000万円以上盗んで書類送検されたニュースがありました。

いつもなら「頑張っている介護職の皆さん、お怒りだろうな」と読んで終わるのですが、いろいろひっかかる点が多いニュースだったので、記事にしました。

事件でひっかかった3つの点

1点目は、ヘルパーが金銭窃盗しているシーンが映像として残っていたところです。最初は、ご家族が設置した見守りカメラの映像かと思ったのですが、設置したのはなぜか、ヘルパーが所属する訪問介護事業所でした。記事を引用します。

去年3月、病院に被害者の男性と同行した際に、毎回50万円が引き出されていてその50万円が前回の引き出しから3か月足らずでなくなっていてお金の流れがおかしいなということで男性の同意を得てカメラを設置した

引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/a4a614b61ae6bcddcf7b4caacf862be214ca4a48

2点目は、引用文からヘルパーが記帳や引き出しなどの金銭管理を行っている感じを受けました。本来なら成年後見制度の利用になるわけで、それをメディアに話したこの訪問介護事業所は大丈夫なのか?とひっかかったのです。

最後は、認知症の男性の同意を得てカメラを設置したとあります。カメラ設置の同意が得られるほどの、判断能力はあったのかなと。ひょっとしたら、認知症男性の親族はいないのかもしれません。

とにかく「何だろう、このニュース?」と思いながら映像を最後まで見たところで、少しだけ疑問が解決しました。この訪問介護事業所は、2021年2月に解散。そして犯人は訪問介護事業所の社長だったのです。

おそらく、他の介護職員の内部告発によって事件が明らかになり、メディアで報道されたのだと推測しました。

介護家族と介護職の信頼関係について

ニュース映像の中で、

「介護や介助に携わる人物がなぜ」

と報道されています。介護職=聖職のように取り扱う風潮と、介護家族側にもどこかにそういった考えがあるように思います。介護職に悪い人はいない、信頼できる人たちだと。

わたしも介護職の皆さんのサポートのおかげで、遠距離介護ができています。なので、そうした信頼で成り立っているという話をある介護職の方としていたら、こうした言葉をもらいました。

「信頼してくださるのはありがたいが、家族も適度な距離を保つべきだし、誰かが窃盗する可能性はゼロではない」

目からウロコというか、なるほどなと。それからというものの、介護職の皆さんへの感謝の気持ち、信頼の気持ちは持ちつつも、俯瞰の眼も持ち合わせるようになりました。どうやったら、この問題は解決するのでしょう?

在宅介護における介護職への抑止力とは?

わが家に設置している「見守りカメラ」は、窃盗の抑止力のひとつになると思います。

昨年出演したNHKあさイチで、うちの見守りカメラが紹介されたとき、視聴者FAXで「カメラ設置をヘルパーにも伝えて欲しい」という意見がありました。

「監視されているようで、仕事がしづらい」、「もっとわたしたちを信頼して欲しい」という意味がこもっているとわたしは理解したのですが、一方でこうした事件も起こります。

わが家では、8年で20人以上のヘルパーさんのお世話になっています。突然の訪問介護事業所閉鎖だったり、ヘルパーさんの退職だったりで、本当は長期でお世話になりたくとも、次々と新しいヘルパーさんがやってきます。

そうすると、信頼関係を築く時間が足りない現状が在宅介護にはあります。うちの場合は、見守りカメラは抑止力のためでははく、あくまでわたしの見守りのためですが、ご家族の中には抑止力として使っている方もいるでしょう。

もうひとつの対策として、シンプルに家族が介護に「深く」関わればいいと考えます。この認知症男性に親族がいたかどうかは不明ですが、おそらくおひとりだったのでしょう。もし家族がいて、介護に深く関わり、ヘルパーと何度も顔を合わせていれば、犯人も窃盗できないと考えたでしょう。

家族が介護に深く関わらないから、信頼関係が生まれず、隙までできてしまうのだと思います。介護職の方に介護を丸投げしている家族なら、こういう悪循環が生まれやすいです。皆さんはこのニュース、どう考えますか? 

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今日もしれっと、しれっと。


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4件のコメント

くどひろ様

無くしものの頻度が上がってきたので、キーファインダー購入を考えています。
昨日は…夜8時ごろ電話がかかってきて、
入れ歯がない!と…
まさか入れ歯にキーファインダーつけるわけにいかないですね

まあさま

そういうケースあります。うちもメガネをよくなくすのですが、キーファインダーがつけられません。
複数買いという方法もありますが、入れ歯も複数作れないかな~

工藤さま、こんにちは。はじめまして。
父の他界後ひとり暮らしになった母の家に二か所見守りカメラを取り付けていました。
母は、足腰も丈夫(トイレも一人でOK,徘徊などなしの要介護2)でした。
ケアマネもカメラ設置に関して、とてもよいアイデアだと言い、私(海外在住)(年二回帰省)がケアマネの来ている時間に実家に電話すると、カメラに向かって手を振ってくれたりしていました。

私も24時間張り付いて、見守りカメラを見ているわけでは、もちろんありませんが、たまたま見ていた時、30分の訪問介護に来たヘルパーさんのありえない行動にびっくり。
その一部始終、すぐにメモを取り記録しました。(一点だけでは、ありません)
色々と考えて、翌日、ケアマネに報告して、結果的にそのヘルパーを出入り禁止にしてもらいました。事業所の所長、ケアマネ、本人の3者面談もあり、くびになったようです。

そのヘルパーは、今までも(私も会ったことがあります)おかしいと感じたことが2度ほど以前にありましたが、その時は、目をつぶっていました。
色々なヘルパーさんが実家に出入りしていましたが、ほとんどの方は、とても一生懸命やってくださっていますが、やっぱり見守りカメラを設置して、本当によかったと思いました。
密室状態で、ほかに誰もいませんから、母を守るのは、私しかいないとそんな気持ちでした。

母は、昨年6月に家の中で倒れた時も、カメラで異変に気付くことができました。
脳梗塞でした。
病院では、医師からもう一人暮らしは無理ですと言われ、やはり遠方に住む兄と、介護つき有料老人ホームを探していたところ、8月末に他界しました。

JFGさま

コメントありがとうございます!

ありえない行動があったのですね。とはいえ目をつぶる気持ち、よく分かります。お世話になっている分言い出せない家族の気持ちもありますし、かといってお母さまも心配だしで揺れ動きますよね。カメラでお母さまを守るのは自分しかいない気持ち、わたしも近いものがあります。やはり見守りカメラを設置できている人の多くは、カメラの有難みを分かっていらっしゃる方が多いですね。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか