認知症の母親と3年ぶりに食べた「あの鍋」のはなし

この日の盛岡の最低気温は、マイナス13度。

高校時代まで使っていた自分の部屋は断熱材もないので、おそらく室温も0度くらい。部屋の中なのに、極寒の外にふとんを敷いて寝ているようなもので、寝返りをうったら死が待っている・・・そんなレベルだ。

そんなクソ寒い朝に、急に思いついたことがあった。

ひとり暮らしの母が最近食べてない物はなんだろう・・・と考えたとき、鍋の絵が頭の中でポワポワっと浮かんだ。

おそらく寝ていた部屋が「マッチ売りの少女」か「ネロとパトラッシュの最後」的状況だったから、こんなことになったのだと思う。

なぜか、朝9時に近所のホームセンターに向かった。雪が積もっているのに、自転車で。

うちら親子が食べた鍋で多かったのが、水炊き。カセットガスコンロがない我が家は、台所でグツグツに煮えた鍋を居間へダッシュで運び、冷めるまで食べ続け、冷たくなってきたら鍋を台所へ持って行って、再加熱という意味不明な鍋をやっていた。

母は料理がなんとかできるとはいえ、栄養面は最悪。認知症のリハビリのための料理なのだが、レパートリーも全盛期の9割減だし、独居なので1回作ると2日くらい同じものを食べている。

そんなこともあって、ホームセンターで3,000円の電気で加熱するタイプの鍋を買った。平成ももうすぐ終わるかもしれないのに、居間とキッチンを往復して鍋をする家なんてうちぐらいなものだ。3,000円出して、そんな生活ともオサラバだ。

しばらく食べていない鍋を考えてみたら、「すき焼き」を思いついた。おそらく3年くらいは食べていないはず。

今度は近所のスーパーへ行って、すき焼きの材料をひと通り買った。寒くて、まつげがおかしくなってた。

うちの母が面倒なのは、クックドゥのような調味料が嫌いなことだ。しかし、割り下は必要なので、結局エバラすき焼きのたれを買い、ラベルをはがして透明な瓶の状態にして、うちの奥さんが作った割り下とウソをついた。

いつもはまずくとも料理はリハビリと割り切って母に作ってもらうのだが、今回はわたしがすき焼きを作った。

息子が作る、3年ぶりのエバラのすき焼き・・・未だに頭の中では、橘家円蔵のCMソングが流れている。

エバラすき焼きは、味付けが甘いと母が言う。認知症になる前の母のすき焼きはかなりしょっぱくて、まだ父が家に居た頃は無言で大さじ5杯くらい砂糖を追加していたのを思い出した。まさかエバラが、出て行った父の思い出を呼び起こすとは!

肉は奮発して、和牛にしてみた。といっても1パック1200円だが、超高い和牛でめったに食べられないとウソをついた。

母はあまり肉を食べないので、どうにかして食べさせたいと思っていたのだが、このウソが効果てきめんだった。

おいしい、おいしい

こんなにおいしいと言われると思ってなかったし、記事にするつもりもなかった。だから写真がない(記事タイトル下の写真はイメージ画像)のだが、あまりにおいしいと言われて、わたしもうれしくなった。

80歳でエベレストに登頂した三浦雄一郎さんは、かなりの肉食らしい。高齢者は肉を食べなくなるが、あの話を聞いてから高齢者ほど肉が必要だと思っていたから、してやったりだ。

夢中で食べ続ける母。で、まさかの完食・・・これは本当にびっくりした、エバラすごい。肉も1枚も残さなかった。

朝に思いついたすき焼きで、ここまで喜んでくれるとは夢にも思わなかった。こうやれば肉を食ってくれるのか、ということも分かった。

今年は特に寒いので、2か月後くらいにまたすき焼きをしようと思う。エバラでなく、浅草今半のわりしたで。

3,000円の電気鍋だが、温度調整はダイヤル式。保温があって低温から高温まで調整ができるのだが、保温から少し温度を上げただけで、地獄のマグマのようにグツグツいう・・こんな極端な温度調整の鍋、世の中にあるのか?

今日もしれっと、しれっと。


にほんブログ村 介護ブログへ


【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

4件のコメント

くどひろ 様
 ほのぼのしました。2人で鍋を囲む情景も浮かんできて。
 若い頃は子供たちに食べさせようと、あまりガッツリ食べることを母親ってしませんよね。だから、きっと認知症になって幼児の状態だからこそ「おいしい、おいしい」と無邪気に食べるんですよね。

 うちの母にも一人鍋や鍋焼きうどんを昼ご飯に作ってあげてます。私は日帰り介護なので、昼食と夜朝食用の汁ものを作り帰ってきます。認知症を発症して以来10㌔以上やせた母が餓死なんてことにならないように、こんな介護を始めたら一年間は体重をキープしているので、安心してます。

 お互いまた母の為においしいものを食べさせてあげましょ(#^.^#)

奈都さま

無邪気に食べるという表現、確かにそんな感じでした。体重キープは確かに安心しますよね。うちにはいろんな方が来てチェックしてくださるので、体温であったり血圧や脈拍なども数字を見ながら安心しています。おいしいものが食べられるうちは、可能な限り食べさせてあげたいですね!

くどひろ様
うちの母もお肉(特に脂身)を極端に嫌いました。ですが、好みが変ってきたように思います。
ファミレスでステーキ丼を頼みましたし、ステーキを「食べる」と言いましたし。
相棒の母親曰く、施設じゃ牛肉なんてまぁ出ないからね~、ってことですが。
すき焼き、いいですね。そういえば私も何年も食べていません。
今度の母との外食は、すき焼きにします。

わかなまるさま

うちの亡くなった祖母も、一時期は鶏のささみしか食べなかったのが、晩年は岩手短角牛のステーキとか食べました。すき焼きがですね、盛岡はなぜか外食がなくて結局3年も経過してしまいました。都内なら、すぐすき焼き屋さん見つけられるのに・・・って思いました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか