【55年ぶりの再会】認知症の回想法とその効果とは?

回想法

認知症の母(70歳)は、小さい頃とても苦労しました。住むところもままならず、9回の引っ越しを経て今の家に住めるようになりました。

ある時、母をそば屋に連れて行ったところ、”認知症とは思えない” 饒舌なしゃべりが始まりました。「一体、何ごと??」 と思ってそば屋を出たら、

母: 「わたしね、昔、このそば屋さんの隣に住んでたの!」

認知症の人って、直近の記憶(記銘)はだめでも、昔の事はよく覚えています。そば屋の隣に住んでいた頃の思い出を話す母は、それはそれは楽しそうで、「いい意味で別人格」 に変わります。この現象を用いて、認知症のリハビリに活用しているところが結構あります。

回想法とは?

回想法はアメリカの精神科医、ロバート・バトラー氏が提唱した心理療法で、過去の思い出を誰かに話す事で脳が刺激され、精神状態が安定し、これが認知症のリハビリテーションによいと、介護施設でも取り入れられています。そば屋の話は、まさに「回想法」 なのです。

そば屋の時は 「回想法」 と知らなかったのですが、今回は 「回想法」 を知っていたので、”あえて” 懐かしい場所へ連れていく事にしました。それが思いがけないドラマを生むことに・・・・

55年ぶりの再会が示した回想法の効果

今回行った食堂は、それはそれは・・・・時間が止まったかのような食堂です。その食堂の隣に、昔住んでいた事を聞いてたので、認知症の母を店の前に連れて行くと、また 「いい意味での別人格」 に早変わり!

母: 「この通りはねー、映画館がいっぱいあって、昔はテレビがなかったから・・・・」
わたし: 「やばい、話が止まらない・・・・」

とりあえず店の中に入ると、今度は私が興奮状態に!その食堂には、昭和30年代のメニューが、そのまま残されていました。カレーライスが60円、中華そばも60円、なぜかビールは160円って高っ!ヂュースは20円!その写真がこちらです↓

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で、わたしがカツカレー(今は600円でした)を注文すると、なんとも懐かしい色した昔の家のカレーが、「スプーンがコップの水に浸かった状態で」 出てきました。

わたし: 「おぉーーー、スプーンがコップの水に浸かってる!!!!」

わたし: 「ナンとか気取ってる場合じゃねぇーなー、やっぱり昭和のカレーはこれっしょ!」

母そっちのけでひとり興奮していると、店主がいらしたので、こちらから声をかけてみました。

店主と母は小さい頃、少しだけ接点があったようですが、お互いに記憶が微妙で会話が弾みません。「回想法」 失敗か・・・・そう思っていたところ、台所方面から、ラスボスが登場!店主のお母さん(90歳)です。

母:  「まぁー、覚えてますか?昔、隣に住んでました、××です!」
店主のお母さん: 「・・・・・・・・・・・・・」

店主のお母さんは足腰は元気で、5年前まではお店に立っていたそうです。ただ耳がものすごーーーく遠いので、店主が通訳しないと会話が成り立ちません。いつ頃の話か、わたしが母に尋ねると、中学生卒業の頃という回答が。母は70歳で、中学卒業が15歳だから・・・・

わたし: 「えーーーー、55年ぶりの再会ってこと!!」

「回想法」 を試すつもりが、まさかの感動の再会になってしまいました。昔懐かしいところへ連れて行くのは、どんな認知症の薬よりも効果あるなぁ~ そう思える出来事でした。ちなみにオチがありまして、

店主: 「母は最近、認知症でしてね」

うちの母が隣に住んでいた事は、少し理解していたようでした。でも、お互い ”認知症” という現実。せっかくリアルでは再会を果たしているのに、認知症ということで、”本当の意味で” 55年ぶりの再会は果たせなかった という切ないお話でした・・・このメニュー、最高ですね!


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか