認知症の人が便をいじる「弄便」とその処理方法

洗濯槽バスター

亡くなった当時89歳でアルツハイマー型認知症だった祖母は、自分の便いじりをするいわゆる弄便(読み方:ろうべん)という症状がありました。

  1. 自宅の畳に便を置き、それを手で広げる
  2. おむつの中の便が気持ち悪いため、病室の壁になすりつける

便を口に入れる方もいらっしゃるのですが、うちの祖母はそれはなかったです。弄便の原因としてよく言われているのは、認知症で便を便と認識できなくなる、おむつの中に得たいの知れない違和感があって、それを取り除くためと言われています。

触ってしまったのはいいけど、爪の中やこの手についた変な物をどうしよう・・えーい、ぬぐっちゃえ!ということで、壁や床になすりつけてしまうという話は、聞いたことがあると思います。

当時、認知症介護1年目のわたしには衝撃的過ぎました。ただわたしはうんこ後処理班で、病院から弄便のご指摘を受けて謝り、つなぎパジャマが便だらけになっているものを、実家に持ち帰って母に洗濯してもらうという作業ぐらいでした。軽自動車はトランクが開放的なタイプだったので、室内のうんこ臭がひどくて窓全開で病院から実家に帰っていた頃が懐かしいです。

つなぎパジャマも祖母が便をいじらないようにするためだったのですが、今思うとなんとなく軽い身体拘束みたいな・・・ボタンを外せない設計になっていたりして、祖母ももどかしかったろうなと思います。そもそも療養型病院に預けたのが失敗だった・・・

あれから5年が経ち、認知症の母はまだ「弄便」はしないのですが、久しぶりに祖母の介護を思い出す出来事がありました。

異様に臭いトイレ

実家のトイレを使うとき、いつも便座をチェックしてから利用します。

何がどうなってか分からないのですが、便座の手前の方に母の便がついていることがあるからです。認知症の母は注意力が散漫なので、便座を中途半端に掃除をして、あとは忘れて笑顔でテレビを見ています。

今回は、わたしがトイレのドアを開けた瞬間から、今までにない強烈な臭いが鼻をつきました。すかさず便座をチェックすると、定位置が汚れていました。それでトイレクイックルを使って便座を掃除したのですが、今日は臭いが消えません・・・あれ?

この場合は、洗濯機のふたを開けると答えが見つかります。案の定、母の汚れたズボンとパンツが入っていました。お風呂でお湯で流した形跡もあり、洗濯物は濡れていました。

今度はお風呂場をチェックしたら、臭いの元がありました。尿パッドに下痢をしたらしく、汚れたパッドが置いてありました。その処理も途中で忘れてしまうんですよね・・・便座の掃除も、尿パッドの廃棄も途中でした。

わたしはトイレとお風呂場を行ったり来たりしているのですが、着替え終わった母は何食わぬ顔してテレビを見ています。あの子、何うろちょろしているんだろって。

原因が特定できたので、まずは尿パッドを母に見つからないようにゴミ袋に捨てます。そこからトイレに戻って、トイレのドア、トイレ後に手をふくタオル、トイレのドアノブ、トイレクイックルの箱、臭い消しスプレーの缶、便座、ウォシュレットのボタン、トイレの床すべてを念入りに、トイレクイックルで拭きます。これで臭いの元は断ったぞ、どうだ参ったか!そんな感じです。

それでも今日はなぜか臭くて、どこだどこだ!と探していたら、トイレスリッパの裏にもついてました。

「そこにもいたのか!」とひとり呟く自分の言葉が名探偵のようで、それに思わずニヤリとした自分に嫌悪感を覚えながら、スリッパの裏をトイレクイックルでまず拭き取って、その後リセッシュで除菌、雨の日でしたが縁側で干しました。

次はお風呂場。お風呂場の床磨きから始まり、排水溝にあった便をビニール極薄手袋をつけながら取ります。その夜に自分がお風呂に入るので、浴室をキレイにしてお風呂場の窓は全開(盛岡はまだ寒い)にして、臭いを消します。

最後に洗濯機です。ズボンとパンツの下洗いはできていたので、そのまま洗濯機を回したら、理科の実験のように水が濁り始めました・・・なんの化学反応だ?と思いながらも継続して、終了後に洗濯物チェック。大丈夫でしたがもう一度洗います。ゴミ取りネットをキレイにしたあと、洗濯槽クリーナーで洗浄が必要と判断して、近所のホームセンターへ行きました。

レジ待ちのとき、急に自分の「手」が心配になり、軽く自分の鼻に手を持っていって臭いチェックをしました。「よし、大丈夫!」ということでお金を支払い、ダッシュで家に戻りました。最後に洗濯槽クリーナーをつけ置き洗い3時間して終了、お疲れ様でした。

おなかが緩い原因

最初は認知症対策でMCTオイルを増やしたので、MCTオイルによる下痢だと思いました。母は弄便ではないのですが、便の処理を忘れてしまうので、結局は弄便の処理と同じことになります。オムツをしてないので、ズボンだパンツだと被害がより拡大します。

母は自分の難病であるシャルコー・マリー・トゥース病が原因で下痢だ!と言い張るのですが、妹に聞いたところ昔から緊張しやすくてしょっちゅう下痢する体質だったとのこと。それを全く知らなかったので、原因が分かってスッキリしました。

認知症の母はありがたいことに、便処理の途中でいつも忘れてしまうので、粗相してもニコニコしているんですよね。こういう時に認知症ってありがたいと思います、普通なら凹むところでしょう・・・自分のズボンを便で汚すのですから。

わたしは母が同じことを何回も言うとき、つい正論で指摘しまうこともあります。でも、便に関しては本人のプライドが傷つくので、何も言わず黙って処理します。その処理回数が、最近少しずつ増えてきたんですよね・・・対策はないだろうか?

便いじり対策グッズ

うちの20年使用の一層式洗濯機は、便や尿パッドをよく洗ってしまうので、記事タイトル下の写真「洗濯槽クリーナー」はいつも多めにストックしてます。でも今回のように、粗相を早めに見つけたら別で洗えばいいんですよね。悩んだらAmazonなわたしなので、探してたら小型洗濯機ありました。頻度が増えたら、粗相専用洗濯機としていいかも?と思いました。

急速分解消臭なら「いい快互服ドットコム」 は、アンモニアの臭いは抜群に消します。尿には強いのですが、便の時はどうだったかな・・・

掃除で2時間、洗濯槽はつけおきで3時間・・・その日はまったりするはずが、せわしない1日になりました。こういう時、腹立つ介護者もいるでしょうね、何してくれてるの!って。わたしも若干そう思うのですが、本に書いたとおり芸人さんと同じ感覚もあります。

「これ、ブログや本のネタになるから、おいしいかも」

逆境をネタに昇化させる芸人さんを、わたしは尊敬しております。

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか