認知症の母に「ある人の死」を伝えて分かった大切なこと

認知症 接し方

先日、神奈川に住んでいる母の妹から、5年ぶりに母に電話がありました。

わたしの叔母にあたるわけですが、その叔母もとうとう70歳。わたしの祖母が亡くなり、49日で盛岡に帰ってきたのが今から5年前のことです。

その叔母の旦那さんは、在宅酸素療法で常に酸素ボンベを持っている人でした。そのため、叔母は夫の介護をすることになり、わたしは母の介護をするという役割分担に、自然となりました。その旦那さんがなくなって葬儀が終わったのが2年前で、わたしの携帯に葬儀が終わったと連絡がありました。

そんな叔母とわたしには、ある約束がありました。それは「旦那が亡くなったことを、私の母には伝えない」ということでした。

母が亡くなったことを知ったら、混乱して面倒なことになります。「葬儀は、お墓は、香典は」と、毎日わたしは質問されることになります。叔母も49日のときに、認知症の姉と1日過ごしてもらったのですが、同じことしか言わない姉にイライラしていました。認知症の方の対応を知らないと、こうなってしまうよな・・・叔母を見ながらそう思ったものです。

叔母も自分の姉の状況を理解していたので、約束はあっさり実行されました。そんな叔母からの電話を受けた母が、受話器を持ちながらこう言いました。

え~、ユキオさん(叔母の旦那)亡くなったの!ちょっと、ひろ!亡くなったの、知ってた?

母の近くにいたわたしは、一瞬耳を疑ったのですが、叔母は5年ぶりに電話してきたかと思いきや、いきなり言ってはいけない自分の旦那の死を、母に伝えたのです・・・。20分くらい姉妹の会話があったあと、叔母と話すことになりました。

くどひろ
ちょっと、言わないっていう話だったでしょ
叔母
あら、そうだったかしら。姉はもう、認知症が相当進んでしまったかと思ったけど、大丈夫そうね。施設に入っているかと思ったわよ。
叔母
そういえばさぁ、お金の件で、わたしに相談してきたことあったじゃない
くどひろ
は、なんのこと?
叔母
分かってる、分かってるって。言わなくても、分かってるから
くどひろ
・・・・・・

死を伝えるタイミング

母の認知症も進行しているので、叔母の旦那の死を伝えたところで、以前ほどの混乱はありません。電話が終わって、1時間も経たないうちに、すっかりそのことを忘れていました。

叔母が約束を破ったことでビックリしてしまったのですが、認知症の母に死を伝えるタイミングとしては、このタイミングがベストだったのでは?そう思えたのです。

おそらく亡くなった2年前にすぐ伝えていたら、母は混乱していたはずです。しかし、今このタイミングで伝えたことによって、母はショックを受けていません。

例えば、認知症になったという事実を、医師や介護家族が本人に伝えたがったり、知って欲しいと思っている人も多いのですが、わたしはそんなにすぐ伝える必要があるのかな?と思っているタイプです。

母から見た義弟が亡くなったことを知るタイミングとしては、今がベストだったわけです。認知症の人の不安を増幅させるようなタイミングで、人の死だったり大切なことを伝えるというのは、かえって症状を悪化させるだけなように思います。死ぬまで伝える必要はないということもあるでしょうし、わたしのようにあるきっかけで、伝えることになる可能性もあります。

とにかく、認知症の人が動揺してしまう事実を焦って伝える必要はなく、機を熟すタイミングが必ずあるのだと思います。

亡くなった父の兄の奥さんにも大変お世話になり、そのことをひた隠しにしてきたのですが、今なら言っても問題ないということで、そのことも流れで伝えてみました。こちらに関しても母は無反応で、しかもすぐ忘れてしまいました。わたしの中で隠し続けるという負担がなくなり、ちょっとスッキリしたのと同時に、いい意味で多幸的な母だなとも思いました。

それよりも気になったのが、叔母が言ってたお金の話です。叔母にお金を借りるとか、相談するとかありえない話です。その他の会話を聞いていても、なんとなくある気配を感じたのでした。ちょっとお酒も入っていたから、どっちなんだろう・・

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(80歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか