認知症介護の『優しさ貯金2000万円』を早くも使い果たしてしまいました!

涙をふく

新型コロナウイルスの影響で、3か月の遠距離介護中断がありました。

「母は元気でいるだろうか」「認知症は進行していないだろうか」「とりあえず元気でさえいてくれれば、それでいい」 遠く離れた東京の地から、岩手の母を心配しておりました。

6月に県をまたぐ移動自粛が解除され、わたしはホテルでの健康観察を経て、なんとか実家へ帰宅。元気な母の姿を見て、とりあえず一安心しました。

母に会えなかった3か月間、わたしの貯金残高は2,000万円?になりました。もちろんリアルな貯金残高ではなく、母に対する「優しさ貯金」が2,000万円になっていたという意味です。

優しさ貯金残高がどんどん減っていく!

東京で見守りカメラ越しに母を見ていた時期は、母への優しさ貯金はどんどん貯まっていきました。何せ、直接母と絡む機会がほぼないので、優しさ貯金を引き出す必要がありません。

岩手に帰省してからしばらくは、わたしの心はまるで菩薩のようでした。

最近の男の人はね、みんな口紅を塗るようになったのよ
くどひろ
(心の声)あ~、懐かしい!男性の口紅の妄想話、いつもしてたよね。いいよいいよ、好きなだけ妄想してくれて。
自分の寛容さと懐の広さ。50手前にして、ついに悟りを開いたか!そんな気持ちで、母の認知症の症状と向き合い続けました。

しかし今は、コロナ禍。岩手に帰ってきて、それほど出歩くこともなく、家にずっといます。母と一緒に居る時間はむしろ、いつもの遠距離介護より長くなってしまいます。
ちょっと見て!最近の男の人はね、みんな口紅を塗るようになったのよ
テレビに出てくる男性演者さんを見るたび、口紅、口紅と言ってきます。メイクをする演者さんはいますが、男性全員って、息子は口紅塗ってませんけど? 1日目、2日目、7日目、14日目……、来る日も来る日も「口紅の話」は止まりません。しかも、1日に何度も何度も繰り返します。
今年は本当に雪が少なかったわね~
季節感のない母らしい言葉で、これも年中言う口癖です。こちらも1日目、2日目、7日目と、真夏に「雪が少ない」という違和感のある話を、何度も繰り返します。

これらの話はここ数か月の話ではなく、5年以上繰り返し聞かされた話です。自分の調子がよくないと、心の中でスイッチがカチッと入ります。それで我慢できないと、「もう!その話、この5分で10回目!」とつい口に出ちゃうこともあります。

認知症の症状と減っていくお金のイメージ

わたしのイメージでは、母に認知症の症状が現れ、ストレスを感じると、優しさ貯金から1回につき3万円が引き落とされます。

同じ話の繰り返しは基本中の基本ですが、尿便の処理、朝4時に起きて朝食の準備を始める、食器を洗わずに食器棚に戻す、メガネを失くし、家中メガネ探し、乾いていない洗濯物を取り込み、干し直すなどなど、いろいろなことが毎日起きます。トラブルごとに、チャリーンっていって1回3万円が消えていきます。

平均すると、1日30回強は何かしらのイベントが発生します。3万×30回強=毎日約100万円ずつ、わたしの優しさ貯金は引き出されていきました。3週間経過した今は、100万円×3週間(21日)=2,100万円。あれ? わたしの優しさ貯金は、ついに底をついてしまいました。

これだけ優しさ貯金を蓄えて、認知症介護に臨んだことはありません。過去最高の残高でしたが、母と過去最高に密だったおかげで、お金の使い方が荒くなってしまいました。

残高ゼロの今は、いつも以上に自分を律し、言い返してしまったあと後悔や虚無感とか、そういう自分の未来を想像して、ガツンと言わずに、軽く指摘する程度で対応しています。

母にとって妄想の世界が正解なので、言い返すことに意味はありません。あくまで、自分のためのガス抜きで、1回指摘しておかないとこっちが爆発するから、たまに指摘しています。

これからどうやって優しさ貯金をしていくかですが、今週から新刊発売というビッグイベントがあります。それに伴い、少しばかり家を空ける時間が増えるので、その間に優しさを貯めて、8月15日までなんとか大ゲンカせずに乗り切ろうと思います。

それに8月に入ると、次はいつ帰省できるのだろう、年内に帰省はできるのだろうか?という不安から、母に対して急に優しくなり、貯金残高は加速度的に増えるはずです。目指せ3000万円!

こうやって優しさ貯金が減ること自体、コロナ禍においては幸せなことかもしれません。病院や施設で面会禁止になっている方は、優しさ残高をしっかり貯金して、来たるべくビッグマッチに向けて準備してくださいね。

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

4件のコメント

はじめまして。母親の認知症介護が始まり、行き詰まりを感じて色々とネットを調べていて、くどひろさんのブログに出会いました。役にたつ情報はもちろん、お母さまとのやりとりに思わず笑ってしまい心が軽くなります。優しさ貯金、私も同じ市内に住んでいるとはいえ、離れて暮らしているのでとてもよく分かりました。新刊予約しました。読むのを楽しみにしています。

ちむらさま

コメントありがとうございます!

心が軽くなるというご感想、とてもうれしいです。認知症介護って、毎日いろいろなことがありますよね。そして新刊のご予約、こちらもお役に立てることを願っています。

「優しさ貯金」すごく分かる〜!と、電車の中で読んで思わず笑ってしまいました!コロナでマスクをしているのでセーフでした。
私も遠距離介護で東京から帰省すると母のデイサービス受入がストップするので半年帰れていません。
なので、貯金額はくどひろさんを超えて5000万ですよ〜!
きっと貯めすぎると気が大きくなってあっという間に減りますね。
すごく癒やされました。ありがとうございます。
新刊、購入します!

ビタミンB1さま

あら、そんなに共感して頂けるとは!!笑って頂けて、うれしいです!
わたしは自分の都内での生活にリスクがないことを説明したのですが、ビタミンB1さまもそれで理解してもらえるといいですね。7/31の記事はひょっとしてお役に立てるかもしれません。

新刊購入、ありがとうございます!!!!

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか