認知症介護する人が諦めていくときの3ステップ

ほぼ根治しない認知症と介護者がラクに向き合うようになるためには、一定の介護期間の葛藤を経て「諦め」の獲得が大切です。

認知症の人に対して怒ったり、否定したり、あるいは言い過ぎて後悔したり、反省したり、罪悪感でいっぱいになったりする日々の中で、介護者は次第に「諦め」の感覚を身に付けていきます。

お薬や認知症介護の工夫をいくらしても、認知症の進行は完全に止められません。葛藤をたくさん抱えたまま、介護を続けていると疲弊してしまうので、その中で「諦め」という自己防衛機能が発動し、徐々に自分のものにしていくのだと思います。

8年半の認知症介護の中で、「諦め」には3つのステップがあるなと思うようになり、感覚的なものでしかなかったのですが、今回文字に起こしてみました。

第1ステップ:認知症になってしまったかという諦め

第1ステップは、とうとう認知症になってしまったかという諦めです。

認知症かな? いや単なる老いかも? 介護者として、なかなか家族の認知症を受け入れられずにいた日々を経て、何とか病院へ連れていくことができ、医師の診断を受けてやっぱり認知症だったかと諦めるステップです。

介護者として、認知症とこれから向き合っていくステップなので、医師が勧める抗認知症薬にものすごく期待しますし、介護のやり方次第で認知症の進行をゆっくりにできると考えます。

認知症の人と話していても、常に認知症を感じるわけでもなく、いい日も悪い日もあるので、認知症の人に対しての期待度も高い。何度も言えば理解してもらえるし、本人もまだ改善意欲がある。社会活動の機会を増やしたり、デイサービスを検討したりします。

コウノメソッドやリコード法など、あらゆる認知症治療メソッドを調べ、なんとかならないか、今ならリバートの可能性もある、そんな期待に満ちあふれています。

しかし期待は、怒りにつながります。介護者は期待しているのに、認知症の人が応えられないと、何でできないの!と怒ってしまう。期待しているから腹も立つのですが、認知症の人への理解度が不十分なので、介護者側が勝手に期待し過ぎてしまいます。

介護者としてストレスを抱えやすい時期であり、介護期間で最も長く続きます。

第2ステップ:何ともならない諦め

第2ステップは、何ともならない諦めです。

認知症のお薬、介護的なアプローチ、いろいろ試してみても認知症は老いと同じように進行していきます。

以前なら、認知症の人に言って理解できていたものも、どうやら伝わらなくなってきた。最初は第1ステップのような葛藤もあるけど、この段階になると「いよいよ何ともならない」という諦めの思いが強くなります。

こうしたことが何度も繰り返されるうち、認知症の症状の改善を望むより、今できることを1日でも長く残存させようと考えます。

認知症の人への期待値はだいぶ低くなっているものの、症状は悪化していくし、今まで見たことのない初見の症状も現れるので、しっかり介護ストレスはあります。ただ、期待度が下がっているので少しラクになるのと、新たに「寂しさ」が強くなってきます。

あんなに葛藤した日々が懐かしい。期待しない分、ケンカの回数が減って、介護的にはラクになるはずなのに、今度は物足りないと感じ始めます。

母の認知症介護はこのステップにいます。

第3ステップ:完全なる諦め

第3ステップは、認知症に対して完全に諦めた状態です。

これは亡くなった認知症の祖母のときの感覚ですが、認知症がかなり進行して、名前や顔はなんとなく覚えているけど、自分の存在を忘れられることもあり、あまり会話が成立しません。

ここまでくると期待はなく、言い方はひどいのですが、葛藤がなくなるのでストレスを感じません。何で分かってくれないのではなく、きっと分からない、もう分からない、何もできないと基本考えます。

期待ゼロの状態で接するので、ちょっとのことでえらく喜びます。顔が分かった、名前が言えた、ご飯をおいしそうに食べている。何より生きていてくれる!

第2ステップから第3ステップにかけて、十分寂しさと向き合うことになるので、介護者として寂しさへの耐性も身に付きます。

「諦め」と書くとなんとなくネガティブなイメージが強くなりますが、このプロセスは「明らめる」のほうですよね。言葉の意味は、事由や理由をはっきりさせる、気持ちを晴れやかにするとgoo辞書にありました。

認知症への理解を深めることで、いい諦めを獲得して、介護がラクになっていくような気がします。

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今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

6件のコメント

初めまして、毎回拝見しています。
工藤さんの人柄に尊敬の気持ちと、ポジティブ精神、愛情と優しさを感じているファンのひとりです。
今日ブログ読んで「明らめる」すごくいいですね。
諦念の境地になるまでと、哀しい気持ちでいましたけど、また工藤さんに励まされました。分かりやすくて、読みやすい文章とても最高です。ありがとうございます。

rikoさま

初コメント、ありがとうございます!

まだまだ介護者として発展途上ですので、しれっと介護しないとなと思いながらやってます。
気軽な気持ちでコメント頂けるとうれしいです、今後ともよろしくお願いします!

モカです。母が認知症になってこのblogを知り、しれっとという言葉に肩の力を抜いて貰っています。この度初コメントです。先日、信頼のケアマネさんから母の日常が少し変わり(老健に入所中、本人いたく気に入ってます)、私はここにいる場合じゃない、いつ家に帰るのかと職員さんに聞き周り挙げ句しょんぼりしてしまう事や、周りから納得の行く答が得られないと母は強い口調になるので損なタイプだよね〜、と。その場はすんません!など明るく応答しましたが少なからずショックでした。ケアマネさんてそのように言うのでしょうか。人間だからガス抜きだよねきっと、と思いながら感謝を伝えていますが、言葉が私に刺さってしまい抜けません。すみません、相談になってしまいました。どう受け止めて消化すればケアマネさんと良い関係を続けられるようでしょうか。ご意見伺えたらありがたいです。

モカさま

お名前を編集しまして、こちらのコメントを承認しました。初コメ、ありがとうございます!

ケアマネのお母さまの状態の「伝え方」が気に入らなかった?ということなのかなと受け取ったのですが、間違っていたらすみません。わたしだったらケアマネに直接言って、早くモヤモヤを解消すると思います。当人同士しか分からないことですし、ケアマネもきっとご家族への伝え方を考えてくれると思います。時にはケアマネも耳の痛い話を伝えなければいけないですし、家族は聞かないといけないので、つらいところですよね。

信頼のケアマネさんと書いてあったのでこのコメントになったのですが、老健なので在宅介護に移行すればケアマネさん変わる?と思った部分もあります。音声配信voicyのほうで、わたしが3人ケアマネを変えた話をしているので、もしよければ聞いてみてください。(施設ケアマネではなく、在宅ケアマネのお話です)
https://voicy.jp/channel/1442/169290

モカです。ご配慮ありがとうございました。voicy拝聴しました。聞きやすく納得納得で、続けて聞いてしまいました。釘付け(耳付け)でした。以前在宅中距離介護時代のケアマネさんは偶然ですが経験と人柄で人気の方で本当に昼夜問わず母をケアしてくださって教えられながらきました。今のケアマネさんとも気が合うというか感じたことを言い合える関係でしたので、その時の様子を仕事以上の感情も含め話をしてくれたんだと思います。寄り添う気持ちがあればこそ、腹も立つし、一緒に泣いてくれたりもするのですよね。ケアマネさんも様々な角度から見てくれているのだと思います。くどひろさんのご返信を読み、お話を聴き、今回のテーマのステップ2へ落ち着ける気がします。そして、対ケアマネさんというより母の進行を受け止められなかった自分がいたのかもしれません。これからの初体験の出来事にも戸惑いはあると思いますが一人で抱えずケアマネさんとはもちろん、くどひろさんの発信の数々にも助けていただきながら母に寄り添っていこうとまた思えるようになりました。ありがとうございます!!

モカさま

耳付け、ありがとうございます!

最初にコメントを読んだとき、実はモカさん自身が認知症の進行を受け止められないからじゃないかな?と思ってました。でも間違っているとイヤな返信になると思ったので、ケアマネも耳の痛い話を伝えないといけないという書き方になりました。お役に立てて、よかったです!

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか