死別した夫との結婚指輪、認知症の妻はつけるか外すか

認知症の母は50年間ずっと、結婚指輪をつけています。

4年前に夫を亡くしているのに指輪を外さない母に、さぞかしおしどり夫婦で、認知症になっても夫を忘れないようにするためと勘違いする方もいるかもしれません。

夫が亡くなった4年前から、さらにさかのぼること27年。夫であるわたしの父は、盛岡の実家を飛び出し、同じ盛岡市内にマンションを買って別居を始め、1度も戻ってくることはありませんでした。

父は母の介護を一切しなかったし、亡くなる直前に葬儀に誰を呼ぶかを聞いたときも、母は呼ぶなと言ったほどです。ドラマだったら亡くなる直前に思いが変わってハッピーエンドになるところですが、現実は甘くありませんでした。

仲睦まじく「ない」夫婦でしたので、死後であっても夫婦が揃うのはイヤとわたしも思ったし、母も同じでした。なので、出て行った父の墓と仏壇は別で構えたのです。

それくらい徹底してきたにも関わらず、母の左手薬指の結婚指輪はそのままでした。

母の結婚指輪

父が亡くなってしばらく経ったあと、結婚指輪を外すよう母に提案しました。
そしたら「このままでいい」と。

わたしは認知症が進行しても、27年別居しても、なんだかんだ父への想いが残っているのかもとポジティブ解釈をしていたのです。しかし、母に指輪の話をすると決まって、

「なーに。この指輪、義姉からのもらいものでさ。わたしの指輪代は、母が出してくれたんだけど、うちのお父さんたら、自分の家のお金がないからって、生活費にしたのよ。全くもう!」

父の家は9人きょうだいで、確かに貧乏でした。「そんなに言うなら、指輪外せば?」と言っても、なぜか外そうとしなかったのです。

脳の検査で病院へ

つい先日、母を連れて脳神経外科へ行きました。目的はMRI検査です。

MRIは、全身に着けている金属を外す必要があります。入れ歯、そして指輪……、千載一遇のチャンス!

検査前日の夜、母の左手に大量のハンドソープをつけて、指輪をグリグリとやったら見事に外れたのです。

一緒のお墓に入って欲しくない、結婚指輪はもらいもの。父に対して文句ばっかりの母が、なぜ結婚指輪をつけているのか不思議でなりませんでした。認知症の影響なのだろうか?

このまま指輪を外して欲しいと思いつつ、まずはわたしの妹に確認。すると妹も母の文句を聞かされていたようで、「特別な指輪じゃないし、もらい物だし」と言い、結婚指輪要らない派が2人になりました。

とはいえ、最終的には母がどうしたいかです。認知症が進行しているけど、本人の意思は確認しておこう!MRI検査の待合室で、指輪について改めて聞いてみました。

すると母は「指輪はつけたい」というのです。これまでの夫婦の歴史である27年の別居、死別、義姉からのもらいもので指輪代は生活費に消えた話を認知症の影響で忘れていると思い、改めて説明したのですが、母は頑として「指輪はつけたい」というのです。

「そうか……」 

全く納得はできなかったのですが、本人の希望なので従うしかありません。検査終了後、自宅に戻って母の左手薬指に指輪を戻すことにしました。

指輪を戻し忘れた!

タクシーで帰宅後、昼食の準備やらでバタバタでした。

翌朝、わたしの部屋の机の前にあるカーテンフックに結婚指輪がありました。

「しまった、指輪戻すの忘れた!」

しかし、最後のチャンスとも思いました。母は認知症。今日も「指輪をつけたい」と言ったら、本当に諦めよう!そう思って、母に再度質問したところ「指輪はつけたい」と。残念……。

結婚指輪を見て、父とのいい思い出でも語ってくれるなら、喜んでつけていて欲しい。だけど、指輪を見て出てくるのは、同居していた頃の愚痴ばかり。そこでわたしは、こんな話をしました。

「一般的にはだよ。死別した夫が忘れられなくて指輪をつけている人もいるし、アクセサリーにしたりする人もいるけど、うちは27年も別居してたでしょ。お墓も分けたでしょ。でもさ、こればっかりは息子がどうこういうんじゃなくって、自分が決めることだからさ。これ最後ね。どうする指輪、つける?外す?」

「外したらさ、デイサービスの人にあれ?指輪どうしたの? って言われるから」
「え、そんな理由だったの? 他人はそんなに見てないから。自分がどうしたいかで決めてよ」
「そっかぁ、んー、じゃあ外そうかな」

認知症が相当進行した今、母の本当の思いはよく分かりません。でも、9年近い認知症介護の中で聞かされてきた父との思い出の内容から考えると、やはり結婚指輪は外してよかったなと思ってます。

少し前なら指の違和感にすぐ気づいてわたしに訴えたはずですが、気づかないほど認知症は進行しているんだなぁ……。指輪は廃棄せず、母の見えないところに置いてあります。

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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(80歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか