映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」は、広島県呉市に住むアルツハイマー型認知症の87才の母を、耳の遠い95才の父と、45歳で乳がんを経験した都内在住のテレビディレクター信友直子監督が支えるドキュメンタリー作品です。
2018年11月、単館上映で始まったこの作品は反響を呼び、今では全国約100か所、10万人を超える方々が見る大ヒット映画に。2019年10月には、令和元年度文化庁映画賞の大賞を受賞しました。その映画が、書籍として新潮社から発売されます。
わたしは、本になる前の「ゲラ」の状態(記事タイトル下の写真)で、ひと足先に読了したので、書籍発売前ですが本の感想を書いてみました。
「 ぼけますから、よろしくお願いします 」の感想
フジテレビ『Mr.サンデー』の総合演出をしている渡邊さんが、この本と映画の特徴を一言で表しています。
認知症の人のドキュメンタリーは見たことあるけど、認知症かもしれないと悩む過程を全部撮っているドキュメンタリーなんて、見たことないですもん。
引用元:ぼけますから、よろしくお願いします。(新潮社)
多くの介護者が「今思えば」、「あのとき、そういえば」という認知症の親の異変を「だいぶあとになってから」気づくので、日記をつける習慣でもない限り、その記録は残っていないことが多いです。
わたしも認知症介護ブログを始めたのは、親の認知症を確信してからです。それまでの1年間の迷いの記録は、全く残ってません。そういう意味でも大変貴重な映像ですし、なぜ撮影できたのかも、本の中で明らかになっています。
そして、認知症介護をしている皆さんが信友家の物語に心酔しながら、介護初期の親への不安や葛藤に共感するはずです。あぁ・・自分もこんな不安を抱えていたと。親の認知症を、なかなか認められず受け入れられなかったと。
眠れない夜も、子どものように泣き続けた日もあったけど、今は認知症の親の言動に理解を示すことができる。誰よりも、自分自身が一番成長していることに、本を読みながら気づくと思います。
母の感情に引きずられて一緒に泣いても、自分の気が滅入るだけで何も解決しない、ということに、誰から指摘されたわけでもなく自分自身でだんだん気づいてきたのです。
引用元:ぼけますから、よろしくお願いします(新潮社)
先輩介護者としてのアドバイス
そんな共感もありながら、先輩介護者としてアドバイスしたくて、仕方なくなると思います。
包括行かないの? 要介護認定はまだ?
わたしは映画を見ながら、もどかしさを感じたのですが、なぜスッとそこへたどりつけなかったのかも、本の中で明らかになっています。
もうひとつ、映画を見ながら感じた疑問がありました。
カメラを向けられれば、誰もが緊張します。シャンとした認知症の母を撮影しても、ドキュメンタリー映画としては成立しないのですが、その理由も本に書いてあります。なるほど、それなら自然な姿を映像に残せるなと。
お母さんが時折見せる母親としてのプライドや取り繕いは、うちの認知症の母にもよく似ています。皆さんも「わかるわかる」と言いながら、 感情移入して本を読むと思います。
遅読家のわたしが1日で本を読み終えたのは、テンポのいい夫婦親子の会話で展開していく小気味よさと、認知症の母を介護するお父さん、娘さんへの共感からです。
そして、介護するお父さんの優しさやかっこよさにも触れてください。大正生まれの男=超亭主関白というイメージをわたしは持っているのですが、いい意味で期待を裏切ってくれます。
最後に映画を見た方へ。あのお父さん、お母さんは今どうなっているか、ご存じですか?映像では語られなかった新しい物語が、この本の最後に記されています。
今日もしれっと、しれっと。