砂川啓介さん死去に思う認知症介護における「先には死ねない」という気持ち

認知症 先には死ねない

認知症の大山のぶ代さんをひとり残して、亡くなられた砂川啓介さん・・・こういった報道がほとんどだったように思います。昨年、がんと闘病中に砂川さんの講演を聴く機会がありました。今となっては、貴重だったなぁ・・・そう思います。

報道を見ていて、気になった言葉がひとつありました。それは「妻より先には死ねない」と砂川さんが言ったということです。

「先には死ねない」と言う男性が多くなる構造

「先には死ねない」と言って亡くなる「男性の」認知症介護者はどんどん増えていくんだろうなとまず思いました。

男性の平均寿命は80.75歳。女性の平均寿命は86.99歳(2017年3月発表)です。女性の方が長生きします。そして、認知症になりやすいのは女性です。

夫婦で考えるならば、夫が妻の認知症介護をするのだけど、妻よりも早く死んでしまいます。「先には死ねない」という妻への想いがたとえあったとしても、データ上は認知症の妻を残して、夫が旅立つ可能性の方が高いです。

これをカバーできるのは、夫と妻の年齢差です。男性が30歳で、女性が37歳という、7つ上の奥さんをもらったとします。そのまま夫婦仲良く暮らして50年。夫80歳でギリギリ存命、妻は87歳で死亡・・・夫側の「先には死ねない」が実現しました。(平均寿命どおりの場合)

厚生労働省が調査している人口動態調査(2015年)の夫婦の年齢差を調べると、このような結果になっています。

夫と妻が同年齢・・・21%
妻が年上 ・・・24%(そのうち4歳差以上は6.5%)
夫が年上  ・・・55.0%

単なる確率論でしかないのですが、女性が長生きして、認知症になりやすい・・・そして男性は早死にする。タメ同士の夫婦や夫が年上の夫婦が圧倒的に多いので、この「先には死ねない」という言葉は今後しょっちゅう見かけることになると思います。

すごくよく分かる「先には死ねない」という気持ち

わたしも認知症の母を残して「先には死ねない」と思っています。ブログ読者の皆さまも、認知症のご家族や親族より先に死ねないと思って、介護されていることと思います。

だから、砂川さんの気持ちはすごくよく分かります。わたしはまだ45歳ですし、母は74歳なので普通に行けば、わたしが看取ることになります。でも、何があるかは分かりませんよね・・・

大山さんが砂川さんの死を「うまく」忘れてくれて、楽しかった思い出のまま施設で暮らしてもらえれば、いいなあと思います。認知症という病気が、悲しみにふける時間を短縮してくれたのかもしれません。なんとなくそう感じた記事を引用します。

大山さんが、亡くなった砂川さんの姿を見たのは数日後、葬儀所だった。棺の中を見て、「お父さん……」と言い、涙をこぼした。すぐに棺から離れ、出口の方へ歩き出し、マネジャーが「帰るの?」と問うと、「帰る」と言い、その場を去った。
引用元:https://dot.asahi.com/dot/2017071900125.html

認知症の母は、祖母が亡くなった時全く泣いてなかったです。もし認知症でなかったら、泣いたのかな・・・いや、親子ケンカの絶えない2人だったから、泣かなかったのかも。

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか