認知症介護をする70代・80代の女性とお話ししたときに驚いたこと

認知症介護 80代 女性

今年行われたあるイベントで、認知症介護をする70代後半から80代前半の女性3人とわたしでお話しする機会がありました。皆さん、「夫」が認知症で介護をされている奥さまたちでした。

わたしも同じ、認知症介護家族です。こうやっていろいろ情報発信はしていますが、積極的にアドバイスしよう、質問に回答しようとは思っていません。もちろん分かることはお答えしているのですが、2作目の「認知症介護で倒れないための55の心得」にも書いたとおり、基本的には皆さん自身の中に、介護の悩みの答えはあると思っている立場です。

わたしが情報発信したり講演することで、その答えが見つかることがよくあるみたいで、そのための発信でもあります。

本当はすべての質問に対して、「自分の中に答えはありますよ」とお答えしたいという思いもあるのですが、それだと講演会にせっかく来てくださったのに申し訳ないので、わたしの知っている範囲でお答えするようにしています。わたしの介護経験は、いろいろある介護のほんの一部でしかないので・・・。

これまで、いろんな介護者の集まりに参加した経験があるのですが、女性3人にお会いしたとき、これは「泣き」の回だと思いました。ご自身の介護を話しているうちに、感極まる・・・このパターンだと。わたしも同じ認知症介護家族なので、思わず共感し過ぎてしまうことがあります。なので、これも本に書きましたが「共感疲労」を起こさないよう、少し俯瞰的に話を聞く態勢を取りました。

脳梗塞から認知症らしき症状を発症された夫を持つ奥さま、何年もひとりで夫を介護していたけど、やっと介護保険サービスにアクセスができて、人の手を借りることが出来た奥さま、100歳超えの親を看取ったあと、同世代の夫を介護している奥さまの3人でした。

それぞれのご苦労がよく分かるお話だったのですが、冷静に考えるとわたしの母より皆さん年上でした。俯瞰的に話を聞いていると、変なスイッチが入ります。この時も「皆さん、うちの母より年上なのに、すごくしっかりされているなぁ~」とか「こんなふうに歳を取れたら、最高だなぁ~」とか、介護とは違った視点で皆さんのことを観察しておりました。

皆さんのご苦労が痛いほどわかったのですが、3人の今の思いが実は同じだということが分かりました。それは、

「認知症介護をしている今のほうが幸せ」

ということでした。

いやいや、皆さん!ひとりで8年も介護しているのは大変でしたでしょう、100歳の親を看取ったばかりなのに、次は夫って大変でしょう、脳梗塞、うちの父親もやりました・・・で、どうして幸せ?

3人に共通していたのは、「亭主関白」でした。この時代の男性によくある、女は3歩下がってついてこいというタイプの夫だったのだそう。それが認知症になり、そういった偉ぶる感じが取れたおかげで、ビクビクした生活をしなくてよくなったというのです。

ある方は、ショートステイやデイサービスに送り出したあと、自分の時間とばかりに、習い事に行ったり、友人をお茶をしたりと自分の時間を謳歌していると、ニコニコお話させていました。ご自身もいろいろ病気をされた経験もあるのに、皆さんなぜかイキイキとしています。

前に「介護者自身のストレス耐性で、介護の大変さは決まる」という記事を書いたのですが、3人の女性にとっては3歩下がってついていく何十年にも渡る日々のほうが、認知症介護よりもよっぽどつらかったわけです。

わたしも会社員時代のストレスが、ハンパなかったです。他の社員には耐えられることも、会社員時代のわたしはムダな正義感・責任感があって、それがストレスを強めていたと思います。社員同士、部署同士の私利私欲がうごめき、毎日起こる仕事上のトラブル・・・本当にダメでしたが、それでも約18年頑張りました。会社行きたくね~って、毎日思ってました。

あのストレスに比べると、今のほうがラクで耐えられます。もちろん家族間のほうが会社よりも、よりドロッとしたところも正直あります。これは人それぞれだと思うのですが、わたしは会社のストレスのほうがダメなタイプです。会社のほうが他人だからラクという人もいますよね、それも分かります。

許せるものってのが家族にはあって、オヤジと断絶したとしても、小さい頃は愛情を注いてもらったところもありますし。相殺できる何かがうちの場合は家族にあるんですけど、会社だと相殺先がなかったりして・・・それに、祖母も父も母も望んで介護状態になったわけではありません。

キラーストレス 介護 耐性

泣きの回が、まさかの笑いの回になるとは正直思ってなかったし、皆さんから勇気を頂きました。

わたしは愚痴で介護ストレスを解消するタイプではないので、こういう話が大好きです。会社員時代は散々愚痴っていましたが、今は愚痴っている自分が好きでなくて、マイナスオーラを言霊として発している自分もあまり好きでなくて、愚痴ったあとにスッキリしない自分が必ずいて、マイナスオーラをプラスに変えたいと常に思っていて・・・100%ではないですけど、そんな人間に変わりつつあります。

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか