認知症の母のお風呂入らない問題が8年越しで解決したはなし

風呂

2012年11月から母の介護が始まったが、2020年までお風呂に入っていない。

お風呂を嫌う1番の理由は、シャルコー・マリー・トゥース病という難病。手足が不自由なため、母はお風呂での転倒を恐れている。

介護が始まった当初は、ケアマネのススメもあって、デイサービスでの入浴を母に勧めた。しかし、母の反応はこうだった。

お風呂に対する母の反応

わたしはお昼にお風呂に入らない人だから
デイサービスのお風呂は、狭くて入れない
もしお風呂で転んだら、誰も助けに来てくれない
デイサービスのお風呂は、実家より広いし、浅くて入りやすい。わたしはデイのお風呂の写真を撮って、何度も母に見せた。しかし母は何としても、お風呂に入らなかった。

わたしの介護ポリシーは、母に無理強いはしない。だから、母がそんなにイヤなら、お風呂に入らなくてもいいかなと、次第に思うようになった。風呂に入らないからといって、母の体臭で鼻が曲がったこともないし、自宅に来る介護職の方から指摘されたこともない。

8年間、母は体を全く洗っていないかというと、そんなことはない。真夏に汗をかいたときは、タオルを濡らして体を拭いている。また、尿便の粗相をすると、下半身をシャワーで洗う。粗相の回数はそこそこあるので、一応清潔という形にはなっている。

介護当初は、認知症の親がお風呂に入らない葛藤があった。やはりお風呂は入って欲しい。しかし、何年も葛藤していては、自分が疲れてしまう。葛藤はいつの間にか諦めへと変わり、ここ数年は母がお風呂に入らないことを何とも思っていなかった。

認知症の人がお風呂を嫌がる理由

LIFULL 介護より、認知症の人がお風呂が嫌がる理由を引用する。

①「入浴」といわれてもなんのことかわからない
②お風呂の入り方が思い出せず行動できない
③裸になることに抵抗がある
④今はお風呂に入るタイミングではない
⑤記憶違いをしている
⑥強制されることが不快と感じている
⑦もともとお風呂が嫌い

引用元:https://kaigo.homes.co.jp/qa_article/128/

確かにこのとおりだと思う。

解決法として、訪問入浴を利用したり、訪問介護の入浴介助を使ったり、声掛けを工夫したり、入浴のタイミングをずらしたりなど、いろいろ方法がある。試してみたがどれもダメだったので、せめて髪の毛ぐらいは洗ってあげることにして、今がある。

わたしのもうひとつの介護ポリシー「生きてさえいれば、それでいい」というのもあって、いつの間にか8年の時が過ぎていた。

諦めていた入浴問題が解決した瞬間

その瞬間はいきなり訪れた。

「この前、お母さんと一緒にお風呂に入ったよ」

コロナ禍で3か月実家に帰ることができなかったわたしは、妹とLINE通話で情報交換していた。その中で突然やってきた、ビッグサプライズだった。

何せ8年もお風呂に入ってない母が、娘と一緒にお風呂に入ったというのだ。試しにお風呂に誘ってみたら、あっさりと入ってくれたらしい。

妹も母がお風呂に入らないことは分かっていたが、コロナで実家にじっくり居る時間ができて、入浴を試す機会ができたのだ。わたしが簡単に介護帰省できなかったことも、幸いした。

「ウソ!マジか!ずっとお風呂を嫌ってたのに。すごい、ホントに!それはすごい!」

都内のスーパーの駐車場で、周りを気にせず、思わず大声を出してしまった。

妹曰く、母の背中はさすがに汚れていて、しっかり洗ってあげたとのこと。湯船もきっと気持ちよかっただろう。その後も妹は、母をたまにお風呂に入れてくれるようになった。

まさかこんな形で、入浴問題が解決される日が突然やって来るとは思ってもいなかった。母の晩年、訪問入浴を利用して、激しく抵抗する未来を想像していた。そんなときは、何年もお風呂に入ってないエピソードを、わたしから介護職員に伝えるつもりでいた。

介護者の中には、認知症の親に過度に期待して疲れる人も多くいる。明日はお風呂に入ってくれるかもしれない、自分の言うことを聞いてくれるかもしれないと。期待し過ぎるから、裏切られると腹も立つ。

諦めの境地に、突然差し込んだ光。

いい具合に、母の認知症が進行したのもあるかもしれない。新型コロナウイルスがなければ、妹が実家に少し長く居ることもなかったろうし、こんな瞬間は訪れなかったかもしれない。

息子ではなく、娘でなきゃできないことはやっぱりある。

8年か……、長かった。

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

2件のコメント

体の不自由でない義母もお風呂に入らなくなり、1か月は入らなくなっていて・・ヘルパーさん、月曜日はお風呂の日と決めていただきました。その方の誘導がいいのか他人に対する気遣いか、月曜日はお風呂、がすぐ定着しました。ヘルパーさんすごい!!

totoさま

良かったですね! 魔法のような介護をするヘルパーさんって、いますよね。
家族の言うことは聞かないけど、他の人の言うことは聞くということも……。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか