コロナ禍の今「東京の人」として岩手で触れた優しさの話

ありがとう

「絶対に帰ってくるな」「岩手1号はニュースだけでは済まない」

新型コロナウイルスの岩手に関する報道は、全国放送ではこういったものが多くありました。岩手で感染した方が見つかってから、その方への誹謗中傷の報道があって、ますますお盆の帰省を見送る方が増えたと思います。

わたしは6月29日に東京から盛岡へ帰ってきて、十分な健康観察期間を終え、すでに1か月以上滞在しています。現在も毎朝体温を測る習慣は続けておりますし、東京に居たときのレベルでアルコール消毒、マスク、うがいは欠かしていません。

報道とは違って見えた、現地岩手でのお話です。

レンタカー屋さんで触れた優しさ

認知症の母のものわすれ外来への通院のため、わたしは3、4年くらい前から格安レンタカーを借りています。途中、介護タクシーを利用していた時期もありましたが、突然サービスが終了してしまい、再びレンタカーを借りるようになりました。

ガソリンスタンドと併設されている格安レンタカー屋さんで、車を借りる手続きをするのですが、最近はある程度ネットで済ますことができます。しかし、現地でどうしてもやらなければいけないことが、運転免許証の提示です。

わたしは東京都民なので、運転免許証には東京の住所が記載してあります。スタンドのスタッフさんは、岩手県民。「東京の人がレンタカーをとうとう借りに来た!うちにもついに!」と、きっとざわついたことでしょう。

何なら、レンタカーの貸し出し中止、検温の実施、体調に関する質問、何かあるかもと覚悟して車を借りに行きました。

わたしは常連なので、一部スタッフさんは名前を覚えてくださってます。それくらいの関係なので、わたしからコロナ対策について話すべきと考えました。

ところが同部屋に、おそらく盛岡の方が2名ほどいました。もしわたしが東京から帰省した話をしたら、あの人たちは警戒してしまうかも。そう感じたわたしは、説明するのを止め、考え始めました。

「どうしよう、どうしよう」

ソワソワしていたところ、外で車の傷の確認をするタイミングがやってきました。

「今だ!」

わたしは、盛岡に帰ってきて1か月が経過していており、ずっと健康であること、今朝も熱がなかったことなどを、1人のスタッフさんに周囲を確認しながら説明し始めました。

すると店員さんが、こう言いました。

女性スタッフ
あぁ~、工藤さんなら大丈夫ですよ

わたしが介護中であること、どんな生活を送っているかを、説明したことはありません。ただ、レンタカーを長い期間、借りただけです。

お金は間違いなく払ってます、車には傷をつけてません。時間も守ってます。わたしが積み重ねた信頼はそれしかないのに、東京の人であるわたしを受け入れてくれるなんて。こんな優しい方もいるんだ、わたしは救われた気がしました。

実際に帰省したわたしへの取材依頼が増えた

このブログでは、コロナ禍の遠距離介護について包み隠さず、すべてオープンにして発信を続けてきました。

同じ立場の方は興味を持って読んでくださっていたのですが、お盆が近づくにつれ、実際に東京から岩手に帰省した経験者ということで、取材依頼が増えました。

岩手ではラジオでこの件を話し、いずれ他のメディアでも扱われると思われます。発信者として勇気がいることですが、わたしのような人もいるという事実も知って欲しいので、リスクを承知でオープンにしています。

ほかにも岩手の方の優しさ、情の深さに触れることがたくさんあり、ネガティブなことばかりではありません。「東京の人」という扱いが当たり前だと思っている中で、ちょっとした優しさに、何度もグッとくる瞬間がありました。

オープンにはしていないけど、わたしのように帰省している人もいると思います。きっと肩身の狭い思いをされ、誰にも会わずにこっそり生活していることでしょう。

このままではきっと、シルバーウィークもお正月も同じようなニュースで埋め尽くされ、ワクチンが出来上がるまでずっとこの状態が続くようでは、介護で往復している人も、帰省を見送っている人もつらすぎます。

勇気をもって、コロナ対策を万全にして、工夫して移動を決めた人の、正しい発信や報道がもっと増えることを祈ってます!

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか