14時4分の目玉焼き

5月5日、こどもの日。

朝、ポストに入っていた岩手日報を見たら、わたしのコロナ禍の遠距離介護の1年を振り返る記事がドカンと載っていて、慌ててその箇所を抜き取った。

いくら母の認知症が進行しているとはいえ、さすがにあの写真を見たら気づくはず。掲載日を知らなかったので、ちょっと焦った。

その直後、5時30分頃に、定番の朝食である目玉焼きともやし炒めを母と一緒に食べた。

4時台の朝食もあるので、5時30分で助かった!と思える自分に笑ってしまう。

11時30分。冷蔵庫にあったおあげと若干賞味期限の切れたうどんで、昼食はきつねうどんを母に作ってもらった。

下記音声配信voicyで話しているのだが、午後はできるだけ母に昼寝をさせないよう工夫している。ところがこの日はわたしが眠くて、つい1時間ほどしっかりめの昼寝をしてしまった。


起きて時計を見ると、14時3分。しまった、寝過ぎた!慌てて1階に降りていくと台所に居た母が、わたしにこういった。

おはよう

おはよう?

悪い予感しかしなかった。

続いて、パチパチと台所で音がしている。

14時4分の目玉焼き

何が起きているのか、状況を把握するのに数秒かかった。

母は完全に朝食の準備をしていた、14時4分に。しかも、今朝食べた朝食と全く同じメニューを。

2時間前に食べた昼食のきつねうどん、こどもの日の柏餅を完食した満腹感も記憶もないようだ。

ここからは自分を諭しながら、母と話した。

くどひろ
はい、時計見てください。何時ですかー?
何時なの、いま?
くどひろ
(時計を指さして)はい、これ何時か分かりますか?
14時過ぎじゃないの?
くどひろ
正解!じゃあ、14時は朝ですか、昼ですか?
お昼ね
くどひろ
お昼はきつねうどんと柏餅食べたよー、でこれは?
あらー、わたしお昼食べ終わってたの。朝かと思ったわ。
そのまま居間に行くと、下記写真のようになっていた。

居間を見たら朝食の準備が……

本当は全力でワーって言いたかったのだが、認知症の母に怒っても意味がないことくらい分かっている。でも、何かは言いたくはなる。そんな葛藤から、自分の気持ちを静めるために淡々と質問したわけだが、第三者から見れば最も怖いやつかもしれない。

気持ちを静めた先に見えてきたのは、とうとう認知症もここまで進行したかという諦め。午後2時に朝食を作っても、指摘されるまで気づかないんだなぁ……。

寝起き直後に今の状況を把握できるか?

母に昼寝をさせない理由のひとつは、昼夜逆転と超早起きを防ぐため。もうひとつは、あり得ないほど寝ぼけるのを防ぐためだ。

わたしも起きた瞬間、今居る場所が東京の家なのか、岩手の実家なのか、健康観察中のビジネスホテルなのかと、数秒フリーズすることがある。フリーズして、我に返って、今を理解できる。しかし認知症の母の場合、なかなか我に返らない、いや間違ったまま行動するのである。

今回だって、昼寝して我に返らないまま、朝食をしっかり準備してしまった。昼寝した後に、死んだ祖母がそこにいたとか、いるはずのないわたしの妹がさっきまで居たというのは日常だが、しっかりめの朝食を作るまでの行動は初めてだ。

どれも最初は驚くが、何度もその症状と対面するたびに慣れる。だから、次回母が朝食を作っても、ブログには書かないはずだし、いつものことと思うはず。

その日の夜ごはんは、わたしが用意したしゃぶしゃぶ。しゃぶしゃぶを定期的に食べてもらう理由は、関連記事を読んで欲しい。

認知症 高齢者 低栄養
昼間の目玉焼きを、ご飯の上に乗せてしれっと出した。

夕食のしゃぶしゃぶに「強制」目玉焼き

母は、わたしがご飯の上に目玉焼きをトッピングして、夕ご飯にしたと思っていた。

音声配信voicyは、わたしの認知症介護の1日の最終回、夜編です。夜にどんな介護をしているかのご紹介です↓

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか