認知症の母に対して「もうできないだろうな」と勝手に決めつけていた件

介護する側が「これはできないだろう」「きっとムリだな、この作業は」と、認知症の人に対して思うことがよくある。

もちろん、最初は「できるだろう」と思ってお願いしてみる。でも、できないことが分かると諦めて、つい自分がやってしまうことがよくある。できる可能性があるのなら、じっくり付き合ってあげたいとも思うのだが、時間に余裕がないとそれもできない。

先日、こんなことがあった。

けあカフェに行こうとした時のこと

先日、「けあカフェもりおか」のイベントに参加した。

てっきり、介護職の方々がゴリゴリ研修をするイベントだと思っていたのだが、誰でも気軽に参加できるいいイベントだった。地域によって色はあるらしいが、皆さんのお近くでもやっているから、一度覗いてみて欲しい。

夜のイベントだったので、家を出る時は定番のウソを母に言う。

くどひろ
今日はね、東京から会社の人が来るから、飲んでくる
あんたも偉くなって、大変ね~。ごちそうしないとね~

母は、自慢の息子が大企業で出世して、誇らしく思っている節がある。そう思っちゃっているから、わたしもその設定に付き合っていて、もうすぐ5年になる。

家を出ようとすると母親が、

ちょっとあんた、そんなシワシワなシャツで会社の人に会いに行くの!恥ずかしい!
くどひろ
いや、これはね、フレンチリネン(ユニクロの)といって、麻素材なの。多少はしわになるって。
ほら、貸しなさい!

母が持ってきたアイロンが、記事タイトル下のアイロンだ。どこから、このアイロン出してきた?何年前のアイロンだ?と思ったが、そのまま母の様子をジッと見ることにした。

母は慣れた手つきで、わたしの麻のシャツのしわを伸ばしていった。

くどひろ
おぉー、やるねー。昔おやじに、こうやってアイロンかけてたね
あんた、この素材、ひょっとして麻でしょ?しわになりやすいから、分かるのよ

わたしが直前に言った話を、さも自分は前から分かってました的な感じで話すから面白い。最近は、母の会話泥棒が、増えた気がする。

案の定、アイロンをかけ終わるまでの間に、この会話を3ターンくらい繰り返した。

母は一部の料理と、洗濯と、掃除ぐらいはできるが、アイロンがけができるとは思ってなかった。火事の心配もあるし、意識的に自分が避けていたのかもしれない。

最近、盛岡に帰省する時は、「わざと」しわっしわのリネンシャツを着て帰るようにしている。もちろんアイロンがけをしてもらって、またひとつ役割を増やすためだ。できるのにできないと判断してしまっていることは、まだあるのかもな・・・そう思った出来事だった。

そしてこのアイロン(カタカナでナショナルと表記)、ネットで調べてみると、1970年から90年代の製造だそう。亡くなった祖母が使っていたらしく、たぶん70年代の可能性もある。あまりに古いため、「アスベスト」を使用しているらしい・・・

慣れた電化製品だから捨てたくない、でもアスベストも気になる・・・結局、このアイロンを捨てきれずにいて、母は気持ちよさそうにアイロンがけをしている。

東北新幹線でしわっしわのシャツを着た40代男性を見かけても、どうかしれっと見逃して欲しい。その人はわざわざ新幹線を使って、自分の親にアイロンがけをしてもらいにいく途中だから。

今日もしわっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

2件のコメント

コウノメソッドを検索していたら、このブログに寄り道してしまいました。
クスッと笑っている自分がいました。介護あるある!!!
心が軽く、体の力が抜けました。こんな瞬間が必要なんですよね。
今では介護1の母を見るため、東京と高知を二年ほど月2往復している私。
人は大変ねというけれど、今、結構悪くないです。これが【慣れ】と負うものでしょうか(笑)
著書も拝見したいと思います。今の母と未来の私のために・・・

森木さま

ブログを見つけて頂き、ありがとうございます!
わたしも今悪くないです、そういう人もいるはずですが、なぜかメディアに取り上げられることはないです・・・

本読んでいただけるとわたしもうれしいです、よろしくお願いします。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(80歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか