認知症の母と息子の強制バースデー

うな重
ねぇ、うなぎって、どういう食べ物なの?
あまりに唐突な質問で驚いたのですが、土用の丑の日が近かったため、スーパーのちらしに「うなぎ」の文字が書いてありました。もし3歳の娘がいたらきっと、こういう質問をされるのだろうとか思いつつ、76歳の母に改めて「うなぎ」をどう説明したらいいか困りました。
くどひろ
ほら!こう、うなぎを割いてさ。かば焼きにして、たれつけて食べるやつ。ちょうど今、みんな食べたいと思ってる頃だよ
今度は「かば焼き」という言葉がよく分からないようで、
あのニョロニョロしたうなぎを、ご飯と食べるの?
「うなぎ」という生き物は分かっていても、それをどう調理して食べるのかを、忘れてしまったようです。

確かに母が認知症になってから、うなぎを食べた回数は2回あるかないかです。食卓にめったに並ばないうなぎが、母の記憶から消えたとしても不思議ではありません。

最終的に白飯のうえに、ニョロニョロしたうなぎを乗せた画が、母の頭の中にあったことが面白く、「うなぎ」と「かば焼き」というあまり使わない言葉が続くと、そういう発想になるのね?と、認知症介護の新境地を開拓した気分になりました。

チラシのうなぎ

数日後、母がうなぎのチラシをまた見つけました。

今度は文字だけでなく、「うな重」の写真付きです。これはさすがに思い出すだろうと思って、

くどひろ
これよ、これ!うなぎ!うな重わかる?
うな重ねー。うーん……。見たことあると思うんだけど、どんな味だったかしらね。
土用の丑の日が近いという理由で「うなぎ」を食べてもよかったのですが、ごちそうを食べるときって何か「特別な理由」が欲しくなりませんか?

わたしの場合、回転ずしですら「今日は、原稿が予定のところまで進んだから」とかいって、自分自身にやたらと「ごほうび」をあげて甘やかすタイプです。これまでも、自分の目の前に人参をぶら下げ、はぁはぁ言いながら生きてきました。人参なしでは前に進めない、意思の弱い人間です。

特別な理由を探していたところ、ありました!わたしの誕生日が7月19日なので、これだ!と。

誕生日のお祝いに、「うなぎ」を出前で取ることにしました。元々、自分の誕生日に何かするつもりもなく、近くでべアレンビール(盛岡で有名なビール)を1本買って、自宅でひとり飲もうかなと思っていたところでした。

盛岡で有名なべアレンビール

母にチラシから選んでもらったところ、なぜか「うなぎバッテラ」がいいと。ずいぶん変化球できたなと思いつつも、わたしはベーシックに「うな重」を頼みました。さて、「うなぎ」を思い出してくれるのか??

今日は何の日?

くどひろ
ねぇ、なんで今日うなぎ食べるか分かる?
わかんない。
くどひろ
今日は、息子の48歳の誕生日です~ 拍手~
(パチパチ)あんた、ずいぶんと若いわね
息子や娘の誕生日は、だいぶ前から忘れてしまっていた母。

認知症が進行すれば、うなぎだって子どもの誕生日だって忘れます。そのことがショックかと言えば、そんなにショックでもありません。認知症介護歴1年目なら、そりゃショックを受けるかもしれませんが、もうすぐ9年目になります。日常茶飯事、いつものことです。

母の中で「うなぎ」はもはや、得たいの知れないもので、息子と「普通の夕食」として食べているだけの感覚だったようです。自分の記憶と「うなぎ」が全くマッチしていませんでしたが、それでも「おいしい」と言ってくれたので、よかったです。

必死の思いで、新型コロナ感染者ゼロの岩手県に帰ってきて「うなぎ」を頼み、認知症の母を巻き込んで開催した、わたしの48歳の強制バースデーパーティでした。自分の中では、コロナの2週間自粛&健康観察期間を無事乗り切り、お疲れさまでした!の「うなぎ」でした。

ちなみに「うなぎ」の支払い(約4000円)は、わたし。アラフィフになって、自腹で誕生日を祝うって、最高ですね?

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(80歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか