認知症の母が切り抜いた新聞の記事が少し切なかった話

認知症 新聞

認知症の母(要介護2・74歳)は、新聞に目を通すのが日課だ。

たまに「認知症でも、新聞読めるんですか?」とか言われるけど、うちの母は読める。

でも読んだ記事は、当然のことながら読んだそばから忘れていく。

新聞の意味はあるのか?と思われるかもしれないが、新聞はカレンダー代わりとして役立つ。

新聞の日付で今日を知り、壁掛けカレンダーで今日の予定をチェックすることもある。

しかし、母は新聞の整理がいいかげんで、昨日の新聞や、一昨日の新聞を平気で読むこともある。

そんな感じでも、新聞を取り続けているのは、見てるだけでもいいから文字に触れて欲しいし、何かを感じて欲しいから。

「新聞は認知症のお薬みたいなもの」とわたしは考えていて、全く読まなくなるまでは取り続けるつもり。

母は『岩手日報』という地元最大の新聞を読んでいる。

盛岡では読売も朝日も読んでいる人は少なくて、ほとんど『岩手日報』なのだ。

そんな地元紙に、たまにわたしの写真が載ることがある。

本を出版した直後とか、講演会があったときに取材を受け、岩手日報に掲載される。

普通はうれしいことなのだけど、母はわたしが介護作家であり、ブロガーであることは知らない。

母は「大企業のエリートサラリーマン」だと信じてくれているから、新聞に載るとまずいのだ。

最初に『岩手日報』に載った時は親戚から電話がかかってきたから、母には絶対言っちゃだめ!という「かん口令」を敷いた。

認知症だから、見られたとしても忘れるでしょ?と思われるかもしれないが、母は気になった記事を切り抜く習性がある。

それを何度も見返すうちに、記憶に定着することもある。

もちろんそこから脳の誤変換が始まって、全く違う話になることはいつものこと。

しかし、自分の息子が地元の新聞に載ることは、認知症とて鮮烈な記憶になるはず。

わたしの仕事がバレることは、母自身が認知症だと記事でハッキリ知ることでもある。

母は自分のことを認知症だと思っている節もあるし、年相応のもの忘れと思う日もある。

6年も揺れ動いている母に、新聞の記事で引導を渡す必要はどこにもないのだ。

今までどう対応していたかというと、まず記者の方から掲載日を聞く。

その掲載日に合わせて盛岡に帰省し、朝6時に起床、自宅ポストにダッシュする。

わたしの掲載ページだけをビリっと破り、何食わぬ顔して残りの朝刊を居間に置いておく。

ものすごく違和感があるはずなのに、母はしれっと新聞を読むからありがたい。

先日、講演先のセンター長からありがたいお言葉を頂戴した。

「岩手日報は電話で止めることができるんですよ、取り置きもしてくれます」

たしかに・・・・・・・その手があったか!

先日の盛岡講演も岩手日報に載ったのだが、東京から電話1本で新聞をスマートに止めてやった。

「6月22日の新聞は、配達しないでください!」

朝6時の自宅ポストダッシュ&新聞破りなんて、必要ないのだ。

うーん・・・今まで何やってたんだ、おれ。アホなのか?

母の新聞の切り抜きで多いのが、岩手出身で活躍している大谷翔平くんとか、ボルダリングの伊藤ふたばさんとか。

あとは犬の写真、たまにリフォームのチラシを取っていることもある。

通信販売系は電話して注文する可能性があるので、わたしが定期的に廃棄している。

何枚か廃棄していたら、この切り抜きを見つけた。

「家族に迷惑をかけたくない!!」

もの忘れが改善する?サプリメントの広告だった。

母はなぜ、この広告を取っておこうと思ったのだろう。

母は息子に迷惑をかけていると、心のどこかで思っているのだろうか。

息子が東京から頻繁に駆けつけていることを、申し訳ないと思っているのだろうか。

自分が認知症なのかもしれない、いや年相応の物忘れなんだ・・・そんな心の揺れもあったのかもしれない。

大丈夫だよ、家族に迷惑なんてかかってないから。

誰もが老いるし、誰もが認知症になるんだから、お互いさまだって。

それに介護は自分のためにやってるから。

通販チラシを捨てるつもりでこの切り抜きを見つけたから、廃棄作業が一時ストップしてしまった。

これ、いらないよ・・・

母に気づかれることなく、そっと新聞の山の途中に差し込んだ。

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

6件のコメント

切ないですよね。
私も似たことがちょくちょくあり、その度に母に隠れて涙ぽろりです。

はい…切ないです。くどひろサン!朝から涙あふれましたよ〰️
お母様の思い、くどひろサンの思い 同じだなぁって。
私も自分のために介護してる。
元気いただきました❗

函館の女さま

あら、泣かせてしまいました・・・失礼しました。でも元気になって頂いて、よかったです!
この記事過去最高に読まれたかもしれません、こんなに反響があるとは思いませんでした。

私もアルツハイマー認知症の母と一緒に暮らしてます。(⌒‐⌒)本当に母には、今まで本当に色々と迷惑をかけて来て…本当にご苦労様!お疲れ様と言う気持ちで…。一緒に暮らしてます。(⌒‐⌒)そりゃ❗️色々と大変ですよ…けど!母は、それ以上に大変な思いをしてきたのに!文句❗️1つも言うわないで…頑張ってくれたんです。本当に今!出来るだけの恩返しです。(⌒‐⌒)

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか