岩手の実家の母の寝室は6畳の和室と4畳のフローリングからなり、合計10畳の広さがある。6畳の和室のほうは畳で、母はそこに布団を敷いて寝ている。
築50年以上経った隙間だらけの寝室で、母は死ぬほど寒いのに掛布団を用意しなかったり、敷布団を忘れて、マットレスにシーツを直接被せたりして、まともに布団が敷けなくなってしまったので、今はヘルパーさんに布団を敷いてもらっている。
万が一の時のために、昨年春にエアコンを購入した。本当は和室6畳用のエアコンを設置すればいいのだが、わざわざ10畳用のエアコンを買った。隙間だらけだから強力なエアコンを設置したのではない。母がわざわざ暖気を逃がしてしまうから、大きなエアコンを買ったのだ。
障子戸を開けて暖気を逃がす母
暖気を逃がすとは、6畳の部屋と4畳の部屋の間には障子戸があって、その障子戸を開けてしまうという意味。障子戸さえ閉めてくれれば、6畳のエアコンでよかったのだ。
しかし母は真冬でも真夏でも、この障子戸を必ず開けてしまう。東京から寝室の見守りカメラを毎日確認しているのだが、真冬に障子戸が開いていた場合は、遠隔操作で10畳分の部屋を22℃くらいまで暖める。
東京に居るわたしは、いつも岩手の実家の映像を見ながら叫ぶのが日常になっていた。電話したとて、「なんで閉めなきゃいけないの、わたしは暑いの」とか言って、閉めてくれない。電話の時点ではエアコンで部屋が暖かいだけで、深夜には室温は4℃になるのだ。
こんな母との攻防を数年も続けていたのだが、今頃になって急に母のある言葉を思い出した。
「だって、恥ずかしいじゃない」
何が恥ずかしいかというと、障子戸が穴だらけで恥ずかしいのだ。母はなぜかお客さんが寝室に来ると思っていて、確かにヘルパーさんは来るが、それ以外の人を妄想している。なので、あまり気にも留めてなかったのだが、急に引っ掛かった。
それで、障子の張り替えを決断した。しかし障子戸は昭和40年代のもので、以前他の部屋の張り替えを自分でやったら、うまくできずに失敗した。アイロンで障子を貼り付けるタイプにしたのだが、木がボロボロでうまく障子紙が張り付かないのだ。
何かいい方法はないかと思っていたところ、障子シールなるものを100均で見つけた。どうせ100円だし、とりあえず障子の穴を塞いでみて、母がどういう行動を取るか見てみよう。
わたしはダイソーでとりあえず1セットだけ購入して、穴を補修してみた。すると……。
翌日から母は、障子戸を閉めるようになった! その次の日も、また次の日もきちんと障子戸を閉めてくれる。そんなに穴の開いた障子戸を見られるのが、恥ずかしいことだったのか。寒さより、恥ずかしさのほうが勝っていたのか。穴を見る人は、誰もいないのだが。
何年もイライラしていたことが、ダイソーのおかげで急に解決してしまった。障子戸の写真を見て分かるとおり本当に汚い補修なのだが、とにかく穴がなければいいようだ。穴を塞いだ直後に障子戸を見た母は、こんなことを言った。
相変わらず、人の手柄を横取りする母であった。
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今日もしれっと、しれっと。