認知症の母に夫が亡くなったことを伝えた日のはなし

認知症 死 伝える

わたしはこの5年間、認知症の母(74歳)に伝えてないことがたくさんあります。特に親族が亡くなったことについては、伝えていません。これを伝えると、母はどうなるか?

  1. 自分は葬儀や通夜、火葬に参加すべきかどうかでパニックになる
  2. 香典をいくら包むかで、悩みだす
  3. 四十九日、一周忌などが気になりだす

この質問攻めに合うのがわたしなので、全員生きていて元気だと言っています。母が死ぬまで言うつもりはありません。ところが、わたしの父の死はどうしても伝えなくてはならなくなったのです。

父の死を伝えなくてはいけない2つの理由

1つ目は遺族年金の手続きです。

父は60歳まで正社員として働いておりました。国民年金と厚生年金をしっかりもらっていたわけですが、母はずっとパート勤めなので、国民年金しかもらってません。もし遺族年金がもらえれば、母の生活は少し楽になります。

わたしが母から委任状をもらって、遺族年金の代理手続きすることになるのですが、記入欄に死亡のことがしっかり書いてあるのです。ごまかしがきかないので、母に父が死んだことを伝える必要があります。

2つ目に、遺産分割協議書の作成です。

行政書士さんにお願いしているのですが、相続人である母からハンコをもらう必要があります。父の死を知らせずに相続の話なんかできるわけがないので、やっぱり父の死を伝えなければならないのです。

この2つの話は、いずれブログで細かく書きます。

父の死を認知症の母に伝えてみたら

わたしは前日から、頭の中でシミュレーションしておりました。母は泣くのか、パニックになるのか、認知症の症状が一気に悪化してしまうのか・・・そんな悪いことばかりが頭をよぎりました。

いざ当日。

くどひろ
実はさぁ、オヤジ2週間前に急に亡くなったんだよね~(軽い感じで)
え、もう亡くなってたんじゃなかったっけ?

実は、この最も理想とするシミュレーションもしていました。母は見事に、理想の切り返しをしてくれたのです。

というのも、以前から「母の頭の中で、父が死んでいる」ことがよくあったのです。だから、そう思っていればノーダメージだろうなと思っていたら、見事にはまってくれました。しかし、そのあとはやはり質問攻めがすごくて

いつ?なんで亡くなったの?お葬式は?

この話を、5時間以上はしました。いつもなら疲れるのですが、やはりいろんなことがあったので正確に伝えようと。母のかかりつけ医が、オヤジを診ていたことはさすがに驚いたようで、

なに、わたしの先生が、うちのお父さんも診てたの?夫がバレちゃったの?
くどひろ
そうそう、だから看護師さんはオヤジの家で訪問看護したあとで、この家に来たこともあったんだよ
うっそー。だって誰も何も言ってなかったよ
くどひろ
そりゃそうよ、全部隠してたんだから。

母には医師が同じだということを伝えましたが、父にはこの件は伝えませんでした。母と同じかかりつけ医と知ったら、怒りだして拒否する可能性もあったからです。本の取材で見つけた先生だと、嘘を突き通しました。

とにかく、母に父の死を伝えるという大作業は無事終了しました。唯一切なかったのは、

最期亡くなるとき、わたしのこと何か言ってなかったの?

という質問でした。こんな返しをしたら母は喜ぶのかな・・・わたしの頭の中で用意しました。

くどひろ
「今までおまえには、いろいろ世話になったな」と言いながら、静かに息を引き取ったよ

長年別居していたとしても、わたしや妹を夫婦で育てた日々には感謝していたという感じになって、ハッピーエンドになるかなと思いました。でも今回は、正直に伝えることにしました。

くどひろ
ひとっことも言ってなかった、27年も別居してたらそりゃ無理でしょ

実際、母のことは最期の3か月間、何一つ話題にならなかったのです。わたしもあえて母の話題はしませんでしたし、父もそうでした。やはり27年別居の現実は、そんなに甘くはなかったです。

でも、母から父にあてた手紙は、遺品整理してたら出てきたんですよね。わたしの学生時代の話が書いてあって、それを一応父は捨てずに取ってありました。筆まめで達筆な母の手紙を読みながら、昔はこんなに字も文章も書けたよな・・と切ない気持ちになりました。

とにかく、母はいつも通り元気なので、長生きしてもらいたいなと強く思いました。あぁ、生きてるだけでありがたい、認知症の症状がたとえ悪化しても・・・そんな気持ちにすらなります。でも、こんな気持ちでいられるのも1か月くらいかな・・

いつ?なんで亡くなったの?お葬式は?

いつもなら紙に書いて母に見せるのですが、紙に残しておくとそれを何度も母は読みます。それで記憶の奥底に浸透してしまうくらいなら、いっそ認知症という病気を利用して忘れてもらったほうがいいという思いもあって、紙には残さずにすべて口頭で回答しています。しかし質問回数が凄まじいので、優しい気持ちも1か月くらいかな・・・そんな感じです。

今日もしれっと、しれっと。


にほんブログ村 介護ブログへ


【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

4件のコメント

本当にお疲れ様です!お父様の手続きの最中に、そこに認知症の人がいるだけでいろんなことが複雑化していくのは私も経験しましたのでよくわかります!
お母様にはお父様のことをどう伝えていたのか気になっていました。

うちの母は父が亡くなった時、傍で見ていたにも拘らず、しばらく亡くなったことも記憶にありませんでした。亡くなる数ヶ月前の苦しいやせ細った顔は全く覚えていないし、散々怒鳴られていたのに、「あの人はいい人だったわー」なんて今も言うからびっくりです。

認知症であることで救われてある部分もありますよね。

㎜さま

ありがとうございます!

そうなんです、認知症であることで救われる部分はたくさんあります。もちろん複雑にもなりますが、母のメンタルが一番大切なのできっとこれでいいんだと思います。

93歳と91歳の義父母の元へ通っている嫁です。年相応の物忘れがありますが、クドヒロさんのおっしゃる4つのプライドで何とか生活できています。認めないけれど認めさせるために使うエネルギーは大したものだと心底感心できます。そして嘘でも褒めてもらうと嬉しいというのも共通。そこで、別居であっても私的には「最後に感謝していた。お母さんから離れた事、苦労させた事、すごく後悔していたよ!」と言ってあげたいと思います。多分、安心すると思うんですね。みんな都合のいい誤解の上で生活しているので都合の好さそうな言葉で幸せになるのなら、私ならそうします。その後にお話しされる言葉がどんな内容になるのか…興味もありますしね(笑)魂に戻られたお父さんは、きっとそれ以上の反省の言葉をお母さんに話されていると思っています。

上田さま

コメントありがとうございます。

都合のいい誤解で生活、うちもずっとやってます。その方が何かと都合いいですよね、やっぱり。魂になった父が反省してくれれば、すごくいいのですがどうでしょうね・・・あの父ですからね(笑)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか