認知症介護しているわたしから見た『さんまのご長寿グランプリ』という番組について

毎年、年末に『さんまのご長寿グランプリ』がTBSで放送される。『さんまのからくりTV』の人気コーナーだった「ご長寿早押しクイズ」が特番化されたものだ。

毎週レギュラーで放送されていた頃、わたしは今のような認知症介護はしていなかった。認知症の症状も知らず、家族も元気でご長寿グランプリをゲラゲラ笑いながら見ていた。しかし今は、あの頃のように、純粋に笑えないし楽しめなくなってしまった。

例えば、何度も同じ回答を連発するおじいさんが出てくるとする。

前は「ワハハ」と笑っていたのに、今は「MCI(軽度認知障害)なんじゃないか 」とか、「すでに認知症なのに、家族は単なる老いとして見過ごしているんじゃないか」とか、エンターテイメントであるはずの番組を、わたしの頭が勝手に医療番組に変えてしまう。

日頃から認知症への感度が高いからこうなってしまうのだけど、せっかくのエンターテイメント番組も、わたしには認知症介護の番組になってしまう。

「ご長寿グランプリ」の司会に学ぶ認知症介護

ひょっとしたら、本当に軽度認知障害であったり、認知症の方もいるのかもしれない。また、そのことにご本人もご家族も気づいていないということもあるのかもしれない。番組上は成立していても、家では家族が大変な思いで介護をしているところも正直あると思う。

だとしても、「ご長寿グランプリ」のノリがわたしは好きだ。物事を忘れてしまったり、隣の回答者につられて、同じ回答をしまっても、会場もお茶の間も笑っている、その許容された世界観が、とてもいい。

もし番組のテロップに「認知症」という言葉を放り込んだら、番組の世界観は崩れ、急にネガティブイメージが支配することになると思う。それほど「認知症」という言葉には、破壊力がある・・残念なことではあるが。

わたしは進行役のアナウンサーのいなし方が、介護家族にとって認知症介護の模範になると思って見ている。

アナウンサーの表情から、「また、同じ回答を言って」と心の中では思っている感じが読み取れる。それでもアナウンサーは笑顔で、高齢者のプライドを傷つけないように対応している。まるで認知症介護のお手本のようだ。

ゲーマーでも有名な、アナウンサーの鈴木史朗さんがご担当されていた頃、高齢者に毒を吐く姿がよくあった。とんちんかんな回答に、うなだれるシーンもよくあった。

それでも番組を見ている人も参加している人も、鈴木さんの高齢者への配慮や愛情を分かっているから許される。いい毒吐きなんだと思う。

家族も介護をしていれば、ときには認知症の人に毒を吐くことはよくある。しかしそれは愛のある毒なのか、ガチの毒なのか、どちらなんだろう?

毒で埋め尽くされた介護家族の文章を、読む気はなくても目に飛び込んでくることは、しょっちゅう。それらの毒がご長寿グランプリのアナウンサーのような、愛のある毒であって欲しいなといつも思う。

わたしも認知症の母に毒を吐いてしまうことはあるのだけど、ガチの毒吐きではないことを母も分かってくれていると思う。記憶が定かでない中で一生懸命生きているもんな、うちの母は。ガチで切れるなんて、とてもできない。

音声配信voicyで、認知症介護について週3回語っているのでご興味のある方はどうぞ↓

今日もしれっと、しれっと。


にほんブログ村 介護ブログへ


【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

2件のコメント

くどひろ 様
あけましておめでとうございます(*^^*)

ご無沙汰してました。一人暮らしで認知症の母が11月に右足を骨折し入院→手術→転院。通い介護から一変し…

そんな中の年末この番組『ご長寿~』を母の病室で一緒に観てました。二人でガハハ(^^)と笑い、久しぶりに(というのも、入院して以来薬や何やらで前よりもボーっとしてTVにもあまり反応がなかったので)楽しそうな母と過ごしました。

テレビの中のご長寿の方々のとんちんかんな発言を、皆が寛容に受け流すと穏やかな介護が出来るんでしょうね(’-’*)♪

さて、番組を見て興奮してしまった母はその晩、誘眠剤を飲んでも中々寝付けず看護士さんを手こずらせたらしく…その他にも整形外科に認知症の患者さんがいると大変らしく完治してないのに来週退院と宣言され、やっとの思いでショートステイをお願いする施設を見つけて、何ヵ月かは安心出来そうです。

まだまだ話したいけれど、長くなるのでこのくらいでm(__)m

今年の活躍も期待してます(^.^)(-.-)(__)

奈都さま

あけましておめでとうございます!

ご長寿でそんなに盛り上がったのですね。認知症の人の骨折は、最終的にはリハビリまで理解できるかどうかが大きなカギなように思います。

ことしもよろしくお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか