ねぇ、うなぎって、どういう食べ物なの?
ほら!こう、うなぎを割いてさ。かば焼きにして、たれつけて食べるやつ。ちょうど今、みんな食べたいと思ってる頃だよ
あのニョロニョロしたうなぎを、ご飯と食べるの?
確かに母が認知症になってから、うなぎを食べた回数は2回あるかないかです。食卓にめったに並ばないうなぎが、母の記憶から消えたとしても不思議ではありません。
最終的に白飯のうえに、ニョロニョロしたうなぎを乗せた画が、母の頭の中にあったことが面白く、「うなぎ」と「かば焼き」というあまり使わない言葉が続くと、そういう発想になるのね?と、認知症介護の新境地を開拓した気分になりました。
チラシのうなぎ
数日後、母がうなぎのチラシをまた見つけました。
今度は文字だけでなく、「うな重」の写真付きです。これはさすがに思い出すだろうと思って、
これよ、これ!うなぎ!うな重わかる?
うな重ねー。うーん……。見たことあると思うんだけど、どんな味だったかしらね。
わたしの場合、回転ずしですら「今日は、原稿が予定のところまで進んだから」とかいって、自分自身にやたらと「ごほうび」をあげて甘やかすタイプです。これまでも、自分の目の前に人参をぶら下げ、はぁはぁ言いながら生きてきました。人参なしでは前に進めない、意思の弱い人間です。
特別な理由を探していたところ、ありました!わたしの誕生日が7月19日なので、これだ!と。
誕生日のお祝いに、「うなぎ」を出前で取ることにしました。元々、自分の誕生日に何かするつもりもなく、近くでべアレンビール(盛岡で有名なビール)を1本買って、自宅でひとり飲もうかなと思っていたところでした。
母にチラシから選んでもらったところ、なぜか「うなぎバッテラ」がいいと。ずいぶん変化球できたなと思いつつも、わたしはベーシックに「うな重」を頼みました。さて、「うなぎ」を思い出してくれるのか??
今日は何の日?
ねぇ、なんで今日うなぎ食べるか分かる?
わかんない。
今日は、息子の48歳の誕生日です~ 拍手~
(パチパチ)あんた、ずいぶんと若いわね
認知症が進行すれば、うなぎだって子どもの誕生日だって忘れます。そのことがショックかと言えば、そんなにショックでもありません。認知症介護歴1年目なら、そりゃショックを受けるかもしれませんが、もうすぐ9年目になります。日常茶飯事、いつものことです。
母の中で「うなぎ」はもはや、得たいの知れないもので、息子と「普通の夕食」として食べているだけの感覚だったようです。自分の記憶と「うなぎ」が全くマッチしていませんでしたが、それでも「おいしい」と言ってくれたので、よかったです。
必死の思いで、新型コロナ感染者ゼロの岩手県に帰ってきて「うなぎ」を頼み、認知症の母を巻き込んで開催した、わたしの48歳の強制バースデーパーティでした。自分の中では、コロナの2週間自粛&健康観察期間を無事乗り切り、お疲れさまでした!の「うなぎ」でした。
ちなみに「うなぎ」の支払い(約4000円)は、わたし。アラフィフになって、自腹で誕生日を祝うって、最高ですね?
今日もしれっと、しれっと。