認知症治療は何歳まで全力を尽くす?諦める分岐点を探る

静岡県裾野市の講演会にご参加の皆さま、どうもありがとうございました。アンケートも読ませて頂きまして、皆さまの心に何か響いてくれたようでよかったです。講演会後にこのブログを読み始める方もいらっしゃるので、ご挨拶でした。

先日、ものわすれ外来に母を連れて行ったとき、かかりつけ医と「何歳になったら、認知症治療の諦めがつくか」という話になりました。

ちょうどわたしもこのことを考えており、読者の皆さんと考えたいと思います!

認知症を諦めるって、どういう意味?

「何歳で諦める」を正しく翻訳すると、認知症の進行や治療に対して、何歳まで「全力投球で」治療するのか?という意味です。認知症治療を投げ出すという意味ではありません。年齢で考えられるいくつかのパターンがありまして、

  1. 後期高齢者(75歳)になるまでは、全力で認知症治療をする
  2. 平均寿命(男性81歳、女性87歳)までは、全力で認知症治療する
  3. 最後まで、全力で認知症治療をする
  4. その他

なんでこんな考えになるのかというと、老化は止められず、認知症が悪化したのか老化なのか区別がつかなくなるからです。参考データとして、年齢別の認知症高齢者の割合を引用します。

70~74 歳までは 4.1%と低いですが、80~84 歳では 21.8%、85~89 歳では 41.4%、90~94 歳では61.0%、95 歳以上になると何と 80%にもなります。 80 歳を超えると 5 歳ごとに 20%ずつ増えていく勘定になります。 もう老人と見れば認知症患者と言ってもいいです。 引用元:http://www.oyagamo.jp/teramoto/no16.pdf

うちの認知症の母は74歳なので、少数派になります。ちなみに75歳から79歳は13.6%ですが、それでも少数派です。認知症の祖母の介護を始めたときは89歳でしたから、周りもその世代になると認知症の人は多いということになります。

正直な気持ち、わたしは祖母に関しては「認知症は年齢的にもしょうがない」と思っていたし、母に関しては「まだ若いのに認知症になった」という気持ちです。

周りや世間一般と比較した結果、そういう気持ちになったことも否定できません。本当は周りとの比較ではなく、個々にある基準で考えるべきだと思うので、こういうデータを見たあとでも、死ぬまで認知症治療は全力でやる!という人もいると思います。

もうひとつ、こんな条件を加えてみます。

  1. 今回が初めての認知症介護
  2. 祖父母の認知症介護をして、今度は父母の認知症介護をする
  3. 親族の認知症介護をたくさんしてきて、これで5人目

認知症介護を経験したことがあるかないかでも、諦めの年齢は変わってくると思います。認知症介護を看取りまで経験すると、どういう経過をたどるか分かるので具体的に何歳まで頑張る!という目標が立てやすいかもしれません。

この記事を読んで、自分なら何歳まで全力投球するだろ?と考える方はまだいい方で、認知症の知識も興味もない人は、もの忘れが増えてきた時点で「年だからしゃぁないよね」と言って、治療を全くしないご家族もたくさんいます。早めに手をうっておけば、もうちょっと健康寿命を延ばせたのに、何もしないこともあります。

「介護者がどれだけ困っているのか+老化」で考える

まずは何歳であっても、介護している人が「困っている」状態ならば、認知症の治療をしよう!と思うでしょう。困っていないならば、そこまでお薬をもりもりと使う必要もないでしょう。

「困っている」状態で介護を続けながら、老化はどんどん進んでいきます。その頃に介護している人がまだ困っているのか、あるいはいい意味で「諦め」の気持ちが出来上がっているかで、また治療を全力でやるのかどうか変わってくるのだと思います。

そこには介護者側の成長や、わたしがよく使う言葉「慣れ」も加わって、いい意味での諦めポイントが見つかるのではないかと思います。

89歳の祖母にもりもり認知症のお薬を飲ませるのも、それも酷というものですしね。心臓が止まったとき、肋骨が折れても心臓マッサージをする?というあの質問にも似たところがあって、89歳の肋骨を折るのがいいのか、自然に死を待つのか・・・その感じを思い出しました。

わたしの今の考え

わたしの基準は亡くなった祖母です。祖母が80歳頃に認知症を発症して、80代後半でも割と元気に歩き回っていて90歳で亡くなりました。認知症の症状を見ていても、親子似ているなと思うところがあるので、祖母をベンチマークにしています。

なので、まずは80歳まではなんとか現状維持のために、食べ物も、お薬も、リハビリも、全力で試すつもりです。80歳を過ぎたら、少しずつ老化を認めながら、改善よりも安定を求めていくつもりです。

介護する側が「この状態でもよい」という妥協点を見つける必要もありますし、何より認知症の人が「苦痛」に思っていないかという視点が大切です。

よく計算ドリルの話がありますが、物忘れが進んで欲しくない娘が母親に強制的に計算ドリルをやらせる、でも母はちっとも面白くない、それでも必死にやらせようとする娘・・・日本中で行われてますよね?

皆さんは何歳まで、自分の家族に全力で認知症治療を行いますか?

今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

4件のコメント

認知症の母72歳。記事と同じ事を私も日々考えています。先日主治医から「服用しているアリセプトは飲み始めて2年もすれば効果はないに等しいので、服用やめてもいいのではないか」と言われました。母の服用歴3年半です。では代替の薬は?との私からの問いに対して「あとは状態に応じた薬(何に困っているかに対する薬)を飲むしかない」と。私にとっては薬のやめ時が岐路なのかと思い悩んでいます。進行をゆるやかにするために飲んでいたつもりのアリセプトが、もうこの段階では効果なしだと言われると、飲まなかった未来と飲んだ未来に、自信もなければ今は覚悟を持てません。ちなみに母は重度ではなく要介護1です。状態はなんとなくくどひろさんのお母様と似ている感じがしますので、以前からそう思い色々と参考にさせていただき助けていただいたりもしています。すみません勝手に。
服薬以外にすべきこと(生活の質向上など)は今もこれからも頑張るのですが、なかなか決断できません。

ふくいさま

わたしは最近、認知症のお薬「以外」の食べ物を本当にいろいろ試していて、リコード法の影響で複合的なアプローチ(お薬1種類だけでなく、食事やサプリも含め試している)がマイブームです。老化はまだ受け入れられないので、お薬以外のところではまるものを探しています。

知人の方も、ご主人による認知症改善としての、ディユアルタスクで、歩きながら1から100まで数を数えさせられる(汗”)。
ご一緒した事があるのですが・・・・・
ご主人「はいお母さん、1から数数えて」
ご本人「はい、1、2、3、88、98、あれ?」
ご主人「違う〜(キレ気味)もう一度最初からやり直し(怒”)」
と言う状態を延々とやらされてました。

とってもお気の毒でした。

ご本人の前で「頭ん中がこわれとんじゃけ、あんたのせいで大変な思いしとるんよ」などの言葉は日常の事で、その度にご本人は「はい」と返事をされてました。

ご主人は、私に対しても高圧的な方で、昭和の頑固親父的な方だったので、私がこの人と夫婦だったら、毎日ストレスに感じるだろうなと思っていました。

人は自分の思い道理に行かない事に対しても、ストレスに感じる事があると思いますが、このご主人は自分が家事をすると言う事では無くて、分別ゴミのプラスチック容器の洗浄なども、一口サイズの油菓子が入ってたビニール袋1枚までも「こんなんも洗わんでそのままゴミにして、わしゃ、一枚一枚綺麗に洗え言うて、お母さんを矯正してやったんじゃ」と当たり前のように話してました。

「結婚してから、だいぶええようにわしが矯正してやったけ、だいぶええようになったんじゃ!」
と言うのがご主人の言葉でしたが、認知症患者であるご本人の奥様は、ご主人との関係が一番の発症の原因では無いかと個人的には思わずにいられません。

小さなビニール袋一枚まで洗剤付けてなんてちょっと、異常です。
しかも、そうする事が良い事で、当たり前の事だとご主人が思って居るんです。

在宅で介護されて居るのですが、周りからもそろそろ施設へと言われており、入所の決断をしたのですが、先日「あれは、やっぱり断ったんじゃ」と聞き、もうお願いだから、解放してあげてと思ってしまいました。

施設へ入る方が幸せな患者さんも居ると思うのが、体験からの想いでもあります。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(80歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて12年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか