自分の目の前に便利な福祉用具や制度があっても誰も気づかなかければ何の意味もない話

歩行器

1か月前、大変お世話になっている理学療法士さん(PT)から、こんな提案がありました。

理学療法士さん
今度、お母さまに歩行器のテストしてみますね。本人がいいと言ったら、息子さんが帰ってきたときに一緒にみましょう

歩行器とは?

理学療法士さんから歩行器の提案を受けたとき、正直ピンときませんでした。病院内を歩くために高齢者が捕まってるアレ・・・わたしの認識はそんなものでしかなかったからです。わたしが立ち会ったときの歩行器がこれ。

歩行器

加齢や怪我などにより、立っている時や歩いている時のバランスが悪くなったり、長距離の歩行も困難になってきます。そのような時に、歩行器や杖を使用することにより、歩くことが楽になり、歩行距離を延ばすことや歩行速度を早めることができ、今まで家に閉じこもりがちだった人も、外へ出るのが楽しみになります。

引用元:https://my.abilities.jp/lifecase/fukusiyougu-guide/hokouki-stick/

手足が不自由な母は、同じ場所で立っていられないので、必ず壁を支えにします。そんな状態なので、杖でもどうかな?と何度も思ったのですが、年寄りくさい、恥ずかしいと。75歳、十分年寄りですが・・・。

歩行器を使うか、杖を使うかについては、こちらのサイトが参考になります。

要は、腕の力が強いか弱いか、バランスがいいか悪いかで判断するといいようで、母の場合は難病で腕の力、握力も弱く、杖だとバランスが保てないため、歩行器(厳密には歩行車)という選択になりました。

母は理学療法士さんに「歩行器いい」と言ったそうです。わたしは取り繕いかもしれないと伝え、ケアマネ、福祉用具専門相談員も含め、一度集まることに。自宅に来たケアマネに対し母は、

ああ、あれね。何だかよくないっけ~

あれとは何なのか?歩行器を試したことも忘れてしまっているのに、まずは否定する母。やはりだめか・・・。

その横でしれっと理学療法士さんが歩行器を準備していると、母が自然とその歩行器に捕まり、いつもの2倍のスピードでスタスタ歩きだしました。

え゛ーー、こんなに歩くスピード変わるの? 

歩行器(車)は最新のもので、握力の弱い母でも握りやすいグリップ、ブレーキ、荷物入れとその上に母が座って休めるスぺ―ス、道路の段差も乗り越えられる仕様など、高齢者が使いやすくなっていました。

4輪で、とても安定していますし、とにかく軽い。取っ手の部分を片手で持ち上げると、簡単に折りたためるので車にも入れられます。その状態がこちら。

誰かが気づかないと意味がない!

理学療法士さんは、わたしとの会話から歩行器を思いついたとのこと。

このエピソードでわたしが感じたのは、どんなに介護職の方が制度や道具に詳しくても、家族や本人の困りごととマッチングしてくれないと、便利であるはずのそのツールは、一生使われないんだなと。

こんな便利な福祉用具あります、カタログみてください!このパンフレットに制度について書いてあるから、読んでください! だけではダメで、この困りごとにはこの福祉用具、この課題を解決するのはこの制度と、必要なものときちんと結びつける必要があります。わたしもカタログは良く見ていたのですが、全く歩行器の発想がありませんでした。

たくさんのプロたちが、わたしたち親子が腕を組んで歩く姿を7年に渡って見ていても、誰ひとり歩行器という発想に至らなかったのは、それだけ便利なものと困り事を結びつけるのは難しいということだと思います。

介護職の常識が、介護家族の非常識であることはよくあります。

在宅で孤独に介護をして、介護保険制度にたどりつけない人がいるように。介護のために会社を辞めて、家にひきこもってしまう人がいるように。

母と外を歩く際、杖代わりに自転車を使います。左手はハンドル、右手はサドルに手を置きながら、フラフラと歩く母。わたしはその横に立ち、前後からの車の通行、駐車場に止まっている車に傷がつかないよう、防御しながら歩きます。

かなり周囲に気遣う必要があったのですが、それが今後はなくなります。また自転車が使えない箇所では、かなりの腕の力で母を支えるのですが、それからも解放されそうです。

ネットで調べると論文に、母の難病にはキャスタータイプの歩行器がよいと書いてありました。母のプライドが勝つか、歩行器の便利さが勝つか、楽しみです。

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか