ある日の認知症介護「パンツよ、乾け!」と叫んだ日

家事にストレスを抱える女性

デイサービスのお迎えがくる、1時間前のこと。

ないの、ない。

認知症の母がデイサービスに行く直前は、必ずモノ探しが始まる。

メガネ、財布、巾着、バック、連絡帳、ブローチ。だいたいこの6つのどれかを無くして、母が大騒ぎする。

わたしは母がしまう場所を経験則からだいたい把握しているので、早いときは1分かからず捜索は終了する。

しかし、最近の母はしまう場所が変則で、わたしも見つけられないことが増えてきた。

捜索時間が長くなると、わたしの義弟が持ってった、わたしの妹が持ってったと、いわゆる「ものとられ妄想」が発動する。

財布はキーファインダーですぐ見つかるのだが、先日は仏壇の引き出しに入っていて、見つけられなかった。台所の奥に入っていたときも、ピーピーと音は鳴っているのに、そんなところにあると思わないから、しばらく見つけられなかった。

で、今回はメガネがないのか?と思って、母に聞くと

パンツがないの。

そうきたか!申告してくれてありがとう。

危なく、ノーパンでデイサービスに行くところだった。

母から声を掛けられる直前、わたしはたまたま洗濯機を回していた。

洗濯物をひとつひとつチェックするのが日課なのだが、理由がある。

ズボンのポケットの中に尿パッドやトイレットペーパーを母は入れる癖があり、それを取らないまま洗濯すると大惨事になるから。

また、尿便のついたパンツを下洗いもせずに、洗濯機に入れることもあるから、ビニール手袋をして、すべてチェックしてから洗濯をする。

今回のチェックで、母のパンツが5枚も入っていた。前の日に洗濯したのだが、1日で5枚も汚してしまった。

新しいパンツを履いてもらおうとタンスを探してみたが、すべてパンツは出払っていた。

そう、この洗濯中の濡れたパンツを乾かすしか、手はない!

ふと時計を見ると、デイサービスお迎えが来るまで、残り45分。早く来る可能性もあるから、残り30分か?

母の前でパンツを乾かすと、わたしがやるというだろうし、恥ずかしいだろうから、2階の自分の部屋に脱水したての濡れたパンツを運ぶ。

まず、ドライヤーのターボで、パンツを乾かしてみる。

まあまあ乾く。でも、パンツのゴムのところと、生地が厚いお股のところが、なかなか乾かない。まずい、どうしよう・・・。

落ち着け!くどひろ!
考えろ!くどひろ!

アイロンで、パンツをジュってやるのがいいのか?

頭を高速回転させていたら、灯油ファンヒーターが目に飛び込んできた。

これだ!

盛岡はもう寒くて、ファンヒーターが絶賛稼働中。

ファンヒーターの近くに濡れたパンツをかざして、乾かす。

おー、ドライヤーの5倍の速さで乾く。

パンツを持つ手が熱いけど、心の中でこう叫ぶ。

「パンツよ、乾け!」

必死に乾かすも、やっぱりゴムのところが乾かない。デイのお迎えまで、残り15分・・・やばい、時間がない!

生乾きパンツデイはダメだ。生乾きの臭いをデイでプンプン振り撒いたら、母がかわいそうだ。乾かした、パリッとしたパンツを履かせたい!

パンツをクルクル回して乾かす。すると、パンツを頭にかぶるような持ち方で、ファンヒーターの前で広げたら、さらに乾くスピードがアップした。

熱がパンツの中で滞留してくれて、パンツを持つ手は熱いけど、ゴムもお股も一気に乾く。

残り時間10分。

母のパンツを何度も触る。よしっ!乾いた!これでOK!

乾きたてのほかほかパンツを持って1階に走り、パンツを母に渡すと、先ほどの騒ぎをすっかり忘れて、とくダネを見ていた。おいっ!

ノーパン状態をわたしから指摘されたので、母は寝室に移動してパンツを履いた。

デイお迎え5分前、ギリギリセーフ。

ほかほかパンツを履いた母が、またトイレに行ったので、わたしはドキドキ。これで粗相したら、次のパンツは絶対に間に合わない。

母はわたしの苦労も知らずに、しれっとトイレから出てきて、デイの送迎車に乗り、笑顔で送迎車の中からわたしに向かって手を振った。

「 とりあえず、ノーパンデイが回避できてよかった 」

そんな思いで、わたしは手を振り返し、送迎車を見送った。

ノーパンデイとか生乾きパンツデイって表現、冷静に考えれば考えるほど、おかしい。

今日もしれっと、しれっと。


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【わたしの書いた最新刊】
東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

2件のコメント

パンツは無かったと思いますが、デイサービスのお迎え前、あるあるです!
我が家は送り出しのヘルパーさんに準備がギリギリになることが多いのでお財布以外の
デイセットを複数、服や下着や靴下も小綺麗なものを複数セットを用意する様に言われ、
義母の見つけられそうない場所に隠しておいてイザという時はそれで対応していました。
思い起こせばたった1年前の出来事なんですが、入院2ヶ月→GH入居半年ですっかり
別人の様に進んでしまいました。

alohaさま

複数セット、分かります。
うちも買い物をヘルパーさんにお願いする際にお金がないことが多いので、何か所かに隠してあります。入院は変化の大きなきっかけに
なりますよね。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか