入れ歯なしで焼きそばを完食した認知症の母|血の気が引く思いと猛省

この日の夕食は、焼きそば。

以前の母は、焼きそばについている粉ソースが苦手でした。もともと料理が得意だった母は、あの粉ソースがどこか人工的に感じられたのかもしれません。粉ソースを嫌がり、結果として焼きそば自体を長く食べませんでした。

しかし認知症が進行したある日、試しに焼きそばを出してみると「おいしい」と言って完食。それ以来、わが家の定番メニューになりました。正直なところ、わたしが料理が下手で、焼きそばなら出しやすいという事情もあります。

焼きそばができあがったところで、母に食事用エプロンをつけ、一緒に食べ始めました。

「おいしい、おいしい」という母

その日はどういうわけか、いつも以上に「おいしい」と言いながら、テレビを見つつ黙々と食べる母。ミックス野菜と麺を炒めただけの料理でも、喜んでもらえるのはうれしいものです。

わたしは先に食べ終え、母が食べ終わるのを横で見ていました。母の入れ歯を取り外して洗浄する都合上、いつも食後にすぐデザートを出しています。デザートまで食べたところで、入れ歯を外して洗浄する、これが夕食後のルーティーンです。

「それ食べ終えたら、アイスクリームあるからね」
「あら、アイス!」

ハーゲンダッツが大好きな母ですが、なぜかあと少しの焼きそばがなかなか減りません。テレビを見ながら、口の中でもぐもぐ。また少し食べては、もぐもぐ。「なんか食べるスピード遅いな」と思って、母の口元をふと見た瞬間、血の気がサーっと引きました。

食事前に、入れ歯入れるの忘れたーーーー!

上の歯1本、下の歯3本のみで、母は焼きそばをほぼ完食していました。のどに詰まらせることがなかったのでよかったのですが、完全にわたしのミスでした。

食事前のエプロンをつける前後で入れ歯をつけるルーティーンだったのに、すっかり忘れていました。二度と繰り返してはいけないミスだと思い、母に謝りました。もっとも、謝っても母には伝わらないのですが。

訪問歯科医の言葉を思い出した

猛省しながら、ふと訪問歯科医に言われた言葉を思い出しました。

「歯が数本しか残っていなくても、歯茎の力で咀嚼できる高齢者はいますよ」

入れ歯がなくても案外食べられる人もいて、咀嚼の仕方は本当に人それぞれだと聞いていたのです(もちろん、入れ歯があるに越したことはありません)。

これまで母は入れ歯を何度も破損させてきたこともあり、その都度おかゆやレトルトを準備してきました。

しかし今回のことで、「実は普通の食事でも意外といけるのかもしれない」と、あらためて考えさせられました。チャレンジはしませんが。

今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(82歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて14年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【著書】
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