認知症介護の詩集『満月の夜、母を施設において』を読んで

満月の夜、母を施設に置いて

先日、世界アルツハイマー月間2019の推薦図書43冊のリストを記事化しました。

この43冊の中で一番クリックされた本が『満月の夜、母を施設において』(著者:藤川幸之助、中央法規出版)でした。

2008年出版で11年前の本なので、購入するか悩んだ挙句、今回は図書館で借りて読んでみました。

満月の夜、母を施設において

著者の藤川幸之助さんは詩人で、息子の立場で認知症の母親を介護する気持ちが、詩に凝縮されています。詩集の最後は、同じく詩人の谷川俊太郎さんとの認知症対談もあります。

本のタイトルに近い、「扉」という詩の一部をご紹介します。



母を老人ホームに入れた

認知症の老人たちの中で
静かに座って私を見つめる母が
涙の向こう側にぼんやり見えた
私が帰ろうとすると
何もわかるはずもない母が
私の手をぎゅっとつかんだ
そしてどこまでもどこまでも
私の後を付いてきた

引用元:満月の夜、母を施設に置いて

認知症の親を介護施設に預けたときの家族の切ない気持ち、情景が詩の中から浮かぶのと同時に、誰もがあるあると思える一コマです。

この詩集を読んで、わたしは認知症の母よりも、病院で1年過ごした認知症の祖母を思い出しました。軽度から中等度の認知症の人への思いより、もっと認知症が進行した人への思い、家族の葛藤を感じられる詩集です。

会話もない、言葉もない、だけど認知症の家族のそばにいる感覚は、まさに祖母で経験したこと。

在宅では面倒見切れないから、施設にお願いする。そんなときに思う親への罪悪感や後悔。それと同時に、どこか介護から解放されるというホッとした思い。今度はその思いに対して、自責の念を抱いてしまう・・・

詩集を読めばきっと、認知症介護を経験した人は「わかるわかる」と呟いてしまうことでしょう。わたしも詩集を読みながら「そうそう」と何度も心の中で繰り返しました。

43冊の推薦図書を記事化したとき、わたしは書評を加えていません。なので、ブログ読者の皆さんは、純粋に本のタイトルがキャッチーで、興味を持たれたのだと思います。

「満月の夜、母を施設において」

この短い本のタイトルだけで、認知症介護をしているとこみあげてくる介護者の切なさ、胸を締め付けられるような母への思い、たくさんの想像をかきたてます。

認知症介護を経験している方なら、必ず共感する詩の数々、読んでみてください!

満月の夜、母を施設に置いて

満月の夜、母を施設に置いて

藤川 幸之助
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今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか