認知症の母がわたしを呼ぶ姿が切ないかもしれない

わたしは今東京に居て、認知症の母は岩手の実家に居る。なのに母は、いるはずのない息子を呼んでいる。こんな状況が続いているのだ。

見守りカメラに映る母の姿

最近になって、母に電話をする回数が増えた。デイサービスの送迎車が来る2時間前から外に出ようとするので、それを阻止するために。

なぜそんなことができるかと言えば、見守りカメラを設置しているから。母がソワソワし出す時間は把握できているので、その時間に母をカメラで確認する。

母が外に出そうな行動を取り始めたら、すかさず電話をする。変なタイミングで電話をすると慌てて転倒するかもしれないから、落ち着いているときを狙って電話をする。

母は受話器を取ると、「あれ、あんたどこに居るの?」と言う。当たり前のように「東京」と答えるのだが、「2階に居るのかと思った」とか言う。

母の記憶の中のわたしは、東京に居る日もあれば実家の2階に居る日もあるのだ。

2階に向かってわたしを呼んでいる

日中も見守りカメラの映像を確認する機会は多いのだが、母が1階からわたしの部屋がある2階に向かって、何かを言っている映像を良く見かける。

「ひろ、ちょっと。ひろ~」

わたしは東京に居るので、当然返事はない。誰もいない2階に向かって、一生懸命わたしを呼んでいる。今日の予定を知りたいのだろうか? デイに着て行く服はどっちがいいのか、答えが欲しいのだろうか? なぜわたしを呼んでいるのか分からない。

最初にこの映像を見たときは、切ないと思った。何度呼んでも返事はなく、寂しそうに居間に戻っていく。どういう気持ちなんだろう? 反応がないと息子は東京に居ると気づいているのか、あるいは寝ていて反応がないと勘違いしているのか?

でも今は声掛けを切ないとは思わず、むしろホッとするようになった。なぜかというと、まだ息子の名前を忘れていないと分かるから。

数年以内にはおそらく、母の記憶の中からわたしはいなくなると思う。認知症介護が始まって10年が経過しようとしていて、症状は順調に進行している。

亡くなった認知症の祖母は最期まで孫のわたしを覚えていたので母もいけると思っていたが、祖母より10年近く発症の早かった母なので、最近は厳しいと覚悟している。

わたしの顔を見て、あんた誰だっけ? という日もあるし、息子の名前が出てこない日もある。だから、そろそろ記憶から消える日が来ると思ってはいるんだけど、カメラの映像を見る限りは、どうやら息子が居る記憶は消えていないようだ。

映像自体は切ないけど、母の記憶の中にわたしがまだ居るのはありがたい。

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今日もしれっと、しれっと。


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東京と岩手の遠距離介護を、在宅で11年以上続けられている理由のひとつが道具です。介護者の皆さんがもっとラクできる環境を整え、同時に親の自立を実現するために何ができるかを実践するための本を書きました。図表とカラーで分かりやすく仕上げました。

4件のコメント

くどひろさん、いつも介護の支えになって頂き有り難うございます。くどひろさんのお母さんと同じ頃に同じような状態だった実の母親は、くどひろさんのお母さんよりちょっと早く病状が進行している印象です。母から私が消えて2年あまりです。でもこの前、「タオルが好きだった小さな女の子が居た」ことを覚えていました。私のことです。60歳近い実の娘を忘れても、「小さな女の子」を覚えてくれていたらそれでいいと、今はその思いでだけでも一緒に持って行って欲しいと思っています。また寄せてもらいます。

クマのぴょんぴょんさま

いいお話ありがとうございます!

いろんな思いを乗り越えて、それでいいと思えるところまで到達していてすごいです。覚悟はしていますが、やはり葛藤はあるだろうと思っています。

うちの「母」の場合・・

「私(息子)」の「名前」は・・覚えてます・・・

でも・・
「息子」でなく「仲の良い・近所の同級生」ってことに
なっちゃってます・・・

「母の夫(私の父)」・・・消えました・・・
「母」・・「結婚してない」「子供なんていない」ことに
なっちゃってます・・・(汗)(汗)(汗)・・・

「朝」は しょっちゅう・・・

「そろそろ 学校いかなきゃ・・」

って言ってます・・・(汗)(汗)(汗)・・

「母(今年80歳)」・・・
「女子高生」に「もどった(??)」ようです・・・

いろんな「忘れ方」あるみたい・・ですね・・・

古賀としおさま

確かに忘れ方いろいろですね。

うちの母の口癖でいくつになっても気持ちは20歳というのがあります。ということは、自分も80歳近くになっても気持ちは20歳のままなんでしょうね。

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ABOUT US
工藤広伸(くどひろ)介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。
2012年から岩手でひとり暮らしをするアルツハイマー型認知症で難病(CMT病)の母(81歳・要介護4)を、東京からしれっと遠距離在宅介護を続けて13年目。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護し看取る。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

【音声配信Voicyパーソナリティ】『ちょっと気になる?介護のラジオ
【著書】親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること(翔泳社)、親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと(翔泳社)、医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 (廣済堂出版)ほか